読めば気分は旅の同行者 記憶と感情を呼び起こすエッセイ集

レビュー

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旅のつばくろ

『旅のつばくろ』

著者
沢木 耕太郎 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103275213
発売日
2020/04/22
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

読めば気分は旅の同行者 記憶と感情を呼び起こすエッセイ集

[レビュアー] 小林直己(EXILE/三代目 J SOUL BROTHERS)

 JR東日本が発行している「トランヴェール」という車内誌に連載中のエッセイから、四十一編を選び構成されたエッセイ集。『深夜特急』など、バイブルとされる名著の数々を生み出した著者が、豊富な海外渡航の経験ののち、依頼を受け、国内に目を向ける絶好の機会だと思ったことから始まった。その道のりは次第に、著者自身の初めての「大旅行」であり、その後の自身の生きていくスタイルを決定した、十六歳当時の十二日間の東北一周旅行を、確かめ直す旅にもなっていく。

 各地へ足を運んだ豊かな経験から状況を断片的かつ印象的に切り取る文章が、読むだけで著者に同行しているかのような気分にさせる。そして、行間には、我々の記憶を刺激する心地の良い空間がある。

 私はこの本を通じて、私自身を旅していった。読み手にこれまでの経験を想起させ、人生を振り返らせてくれる本なのだ。一編ごとに異なる思い出が呼び覚まされ、懐かしんだり、昔日を顧みたり、忙しく記憶が蘇る。我々に内在する記憶と感情を呼び起こすエッセイ集といえる。

 私にとって「旅」とは何なのか? EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSのツアーにおける移動とは異なるのか? そもそも「旅」をしたことはあるのか? と、自らに問いかけていく。

 読み進めるにつれ、その考察は深まっていった。「旅」とは、少年期においては、自らを発見する道程であり、青年期では日常で忙殺されていた自らを取り戻す契機。自身を再発見し、受け入れていくのだ。そして、壮年期には人生というこれまでの歩みを、再び味わうためのものなのかもしれない。「旅をし直す」のだ。歩まなかった道に思いを馳せながら、選んできた曲がり角をもう一度曲がり直す。見落としていた大切なことに気づく。そして、その道を終える準備をする。

 必携の一冊であるが、コロナウイルスの影響で、外出すらままならない日々が続くいま、読む「旅」としても良質である。読むだけで各地に足を運んだような気分にさせるだけでなく、情熱とは何なのか、年齢の変化への対応とは、など、エッセイの中にビジネスや人間関係に対する著者の体験やヒントも詰まっている。

 タイトルは、ツバメのようにこれからも軽やかに生きたいという著者の思いの表れであろう。私はこれから、どのように人生を歩んでいくのか。今後も折につけて、読み返してみたいと思う。

新潮社 週刊新潮
2020年5月21日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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