『夏の庭』
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少年3人が孤独な老人と過ごした夏
[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「台風」です
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湯本香樹実の『夏の庭』は、3人の男児が過ごす小学校最後の年の物語だ。
死ぬってどういうことなんだろう。そんな疑問にとりつかれた3人は、近所のひとり暮らしのおじいさんを見張ることにする。いかにも生気のないおじいさんだから、死に際を目の当たりにできるんじゃないか。とんでもなく失礼な発想だが、3人は大真面目で「探偵」の任務に取り組む。
3人の不審な行動はたちまちばれてしまう。そこから俄然、おじいさんが元気を取り戻す。ゴミ屋敷然としていた家を片付けたり、きちんと食事を取るようになったり。男児の視点で語られているが、おじいさんの気持ちを想像しながら読んでも面白い。
孤独な日々を、思いがけず子どもたちがかきまわし、賑わせてくれる。嬉しいではないか。子どもたちにとっても、おじいさんは大事な人になっていく。
3人組は協力しておじいさん宅の庭にコスモスの種をまく(種屋さんの老婦人とのやりとりも秀逸)。そこに台風がやってくる。せっかく芽が出て伸びてきたところだったのにコスモスは大丈夫だろうか。心配になって、子どもたちは自宅を抜け出し、嵐の中、おじいさん宅に駆けつける。相談したわけでもないのにちゃんと3人が揃うところがいい。
台風が通過していくあいだ、おじいさんは戦争の記憶を語って聞かせる。「ほんとうにこわい」その話を、3人はしっかりと受け止める。台風のおかげで、世代を超えた絆が結ばれたのだ。