初詣で 照降町四季(てりふりちょうのしき)(一) 佐伯泰英著

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初詣で 照降町四季(一)

『初詣で 照降町四季(一)』

著者
佐伯 泰英 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784167916695
発売日
2021/04/06
価格
825円(税込)

書籍情報:openBD

初詣で 照降町四季(てりふりちょうのしき)(一) 佐伯泰英著

[レビュアー] 清原康正(文芸評論家)

◆駆け落ち、人情、光る剣術

 佐伯泰英は文庫書き下ろし時代小説という新たなジャンルを確立して、数多くの人気シリーズを発表してきた。本書は著者初の女性職人を主人公とする書き下ろし新シリーズの第一弾。四月から七月まで単行本全四巻が連続刊行され、文庫版も同時発売される。

 ヒロインの佳乃は、日本橋にほど近い照降町の鼻緒屋のひとり娘で鼻緒挿(す)げ替えの職人である。

 佳乃は魚問屋に奉公していた三郎次に夢中になって三年前に駆け落ちしたのだが、三郎次は札付きのワルで賭場の借金返済で佳乃を遊里に売ろうとしたので、実家へ逃げ戻ってきたのだ。喘息(ぜんそく)がひどくなった父・弥兵衛は、二年前からもと豊前小倉藩士の浪人・八頭司(やとうじ)周五郎を見習職人として雇っていた。

 この周五郎はじめ、履物問屋・宮田屋の主人に大番頭、幼なじみの船頭・幸次郎、十手持ちの玄冶店(げんやだな)の親分・準造、町医者・大塚南峰らに温かく見守られ、佳乃は照降町の住人の情の深さが身にしみる。

 周五郎の致仕(ちし)には藩政改革をめぐる重臣派と改革派の抗争がからんでいたのだが、その後も両派からの誘いがあり、重臣派に襲われて右腕に軽い刀傷を負わされもした。

 駆け落ちの前から鼻緒挿げを手伝っていた佳乃の腕前は落ちておらず、精を出して取り組んで上々の評判を取るようになっていった。だが、三郎次が賭場のやくざ者たちと店に襲ってくる。長脇差を抜いて脅す男たちを、周五郎が心張棒(しんばりぼう)で叩(たた)きのめす。

 この一件で江戸払いとなった三郎次がまたしても佳乃を拉致しようと襲ってくる。今度も周五郎が危ういところで救い出す。周五郎の剣術の冴(さ)えの描写が秀逸。

 文政十一年の暮れから翌年三月二十一日未明までの間に、佳乃の身辺で起こる出来事がテンポよく展開されていく。鼻緒挿げ替えの女職人と訳あり浪人の見習職人の組み合わせが物語のポイントで、この二人の今後の活躍を描く著者の新境地での腕の振るい具合が楽しみだ。

(文芸春秋・2420円、 文庫版は825円)

1942年生まれ。作家。著書『居眠り磐音』『酔いどれ小籐次』など。

◆もう1冊 

藤沢周平著『橋ものがたり』(新潮文庫)

中日新聞 東京新聞
2021年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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