『滅私』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
物欲からの解放を描く小説 実践する私が読んでみれば
[レビュアー] 島崎和歌子(タレント)
私が極力物を持たない、いわゆる「ミニマリスト」生活を始めたのはおよそ10年前、デビューから20年を迎えた頃です。
高知から出てきたときにはボストンバッグ二つ分だった荷物は、いつの間にか引っ越しの度に2トントラックが必要なくらいに増えてしまいました。芸能界で華やかな人たちの暮らしぶりや持ち物を見るうちに、たぶん見栄のせいでしょう、同じようになりたいと思う気持ちが、物を増えさせていきました。
それを変えたきっかけは東日本の震災です。ボランティアで被災地に行き、おびただしい家具や持ち物の残骸を見て、強烈な虚しさに襲われました。東京に大地震が発生すれば、自分の部屋もこうなるかもしれない。
自宅の中を見回して、「いま必要かどうか」という基準で選り分けたら、ほとんどが「要らない」側に。それからしばらくの間、マンションのごみ置き場は私の家具や持ち物で山のようになってしまいました(笑)。
数年前、炊飯器や電子レンジを処分したと番組で話したら思いのほか話題になりました。部屋の照明も外しています。スタンドで自分の周りだけ明るくすれば十分だし、地震で天井から落ちたら怖いので。
周りは極端だって言いますけど、私にとっては、生活がすっきりして気持ちも楽になった。コロナ禍で家にいることが多くなり、ますます生活がシンプルになっていますが、本当に必要なものはその都度買えばいいし、不便なことはありません。
番組でご一緒したことはありますが、羽田さんの小説を読むのは初めてです。いつも同じものを食べる生活を続けていると聞いたことがあります。ミニマリストの生活とも近いものがあるのかもしれませんね。小説の中で、災害のことを考えると物を持たない方が合理的だと書かれているのは、私と同じだと思いながら面白く読みました。
主人公の冴津という男性は物を持たない暮らしをしていますが、学生の頃から弾いていたギターは捨てられないでいる。私もアイドルデビューした時の衣装は今でも持っています。いくら生活をシンプルにするといっても、人としての気持はやっぱり大事。だから、冴津の知人が子供にもおもちゃを買わないというのはどうかな。子供がかわいそうですよね(笑)。
冴津は最後、ゴミ屋敷に入り込んで、ある事態を招きます。悲劇的な終わり方のように見えますが、自分の考えを貫いたのかな、と思いました。私もこう見られているのかも―。