第25回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作家・麻加朋 記念エッセイ「新しい私とデビュー作」
エッセイ
『青い雪』
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新しい私とデビュー作 『青い雪』著者新刊エッセイ 麻加朋
[レビュアー] 麻加朋(作家)
私は引っ込み思案な子供でした。学校でも目立たないごく普通の生徒。でも中学生のとき、突然、廊下で先生に呼び止められたんです。一学期の中間試験が終わったばかりの頃でした。その年に新しく赴任してきた国語の教師に、「君はすごいね」と言われて、私はただポカン。どうやらテストの結果が大変よかったとのこと。「はあ」と間抜けな答えしか返せなかったような……。こんな小さな出来事を今でも覚えているくらい、褒められた経験もない、何の取り柄もない子供でした。自分から何かを発信することもなく、常に受け身で、[大人しい子]としか表現しようがない存在……。
自分でもそう思っていた。
それが巡り巡って、小説の新人賞を受賞するなんて、人生は不思議です。受賞を知った友人から届いた手紙には、お祝いの言葉と共に、「高校時代のあなた=作家のイメージが湧いてこなくて驚いた」と書かれていました。「私が一番びっくりしている」と本音を綴って返信しました。
振り返れば、本を読んだり、人の話を聞いたり、インプットばかりの人生だったけれど、充分楽しかったし、自分らしいと感じていた。それなのに、ひょんなきっかけで小説を書き始めたら、一転。書きたいことが自分の中からどんどん溢れでる。今までにない感覚に見舞われて、物語の世界に夢中になった。私の中に、これを書かせる何かが潜んでいた。目覚めた情熱に突き動かされた。ギリギリまで見直しを続け、締め切り当日に応募原稿を郵便局に持っていったときの、徹夜明けの太陽の眩しさと充実感を今でも覚えています。
こうしてデビュー作『青い雪』は生まれました。
『青い雪』に出てくる人たちに脇役はいない。それぞれが悩み、もがきながらも懸命に生きています。
小説を読んだ後に、登場人物の中の誰かを好きだと思ってもらえたら、この上なく幸せです。