「歴史思考」を身につけると当たり前の悩みから解放される理由

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世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考

『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』

著者
深井 龍之介 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784478112274
発売日
2022/03/31
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「歴史思考」を身につけると当たり前の悩みから解放される理由

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

人はさまざまな悩みを抱えながら生きているものですが、そもそも悩みとはなんなのか?

この問いに対して『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』(深井龍之介 著、ダイヤモンド社)の著者は、「僕たちが生きる社会には無数の『当たり前』があり、そこから外れる人が悩んでいるのだ」と指摘しています。「歴史を面白く学ぶ コテンラジオ」を運営している人物。

たとえば現代の日本社会においては、お金を稼げることは「いいこと」とされています。また性的少数者の権利が注目されているとはいえ、男性は女性を、女性は男性を好きになることが「普通」とされているのも事実かもしれません。

しかし現実問題として、そういった「いいこと」や「普通」から外れている人はいるもの。また、そういう人たちこそが悩んでいるという側面もあるでしょう。つまり悩みの原因は、社会にある常識や価値観だということ。

ところが歴史を学ぶと、僕たちを取り巻いている常識や価値観が、決して当たり前ではないことに気づけます。

今の例でいくと、お金を稼ぐことが「良いこと」だった時代は実はとても少ないですし、男性が男性と恋愛をするのは、洋の東西を問わず、よくあることでした。

このように、僕らの「当たり前」が当たり前ではないと分かると、みなさんを苦しめる悩みの前提が崩れます。したがって、悩みから解放されて楽になれる……というわけです。(「プロローグ 僕たちの『当たり前』を疑え」より)

そして、それこそが本書の狙い。著者は本書を、「歴史を知ることで悩みを吹き飛ばす」ために書いたというのです。そんな本書のなかから、きょうは6「僕らの『当たり前』は非常識 性、お金、命」に焦点を当ててみたいと思います。

社会の価値観は変わるもの

江戸時代の日本は、男性の同性愛を避ける必要は必ずしもなかったのだと著者はいいます。

ところが西洋化が進むと文化はパッケージで輸入されるため、いろいろな価値観や常識が変わっていくことになる。その結果、日本人の「当たり前」も変わってしまうーー。そういうことは、しばしば起こるわけです。

たとえば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック<現メタ・プラットフォームズ>、アマゾン・ドット・コム)など、シリコンバレーの企業が強くなると、その影響で日本企業も「シリコンバレーの文化を取り入れないと負けてしまう」という雰囲気になりました。

それはそうなんですが、ビジネスに直接関係なさそうな文化、たとえばスーツではなくTシャツにジーンズで仕事をする文化までパッケージで入ってきて、「スーツを着るのはダサい」という価値観が広がったりしました。明治時代に欧米から取り入れた「スーツは格好いいんだ」という価値観を、今度は否定するわけです。

このように、少し長期的な目線に立つだけでも、社会の価値観がコロコロと変わっていることに気づくでしょう。(160〜161ページより)

いいかえれば、私たちの社会の基盤になっている「当たり前」とは、その程度のものだということです。(160ページより)

「稼ぐ人が偉い」のも最近の価値観

同じく冒頭でも触れたように、現代では「お金を稼げる人が偉い」という価値観も根強いのではないでしょうか?

しかし、その価値観もまた絶対ではなく、あくまでも近現代の資本主義社会のなかだけで通用する価値観にすぎません。

たとえば江戸時代の日本だと、公家や武士が偉いとされていました。でもよく考えると、彼らは全然、お金は稼げません。

じゃあ誰が稼いでいたのかというと、三井家や住友家といった商人です。彼らはまったく偉くはありませんでした。商人の中では偉かったかもしれませんが、公家や武士とは比較にならなかったのです。

またキリスト教的な考え方が支配していた中世ヨーロッパでは、他人の偉さは信仰心の篤さで決まりました。ですから、やっぱりお金を稼ぐ能力なんてリスペクトの対象にはなっていませんでした。(162ページより)

さまざまな経緯を経て生まれた資本主義社会では、当然ながらお金を稼ぐことが重要な意味を持っています。

だからこそ現代において、稼ぐ能力がものすごい価値だと思われているわけです。しかし落ち着いて考えてみると、お金で買えないものは無数にあることがわかってくるはず。(162ページより)

倫理観と価値観は分けて考えよう

つまり著者が伝えようとしているのは、さまざまな価値観が「社会に規定されたもの」であることを忘れてはいけないということ。

ある価値観が存在する事実を「認める」ことと、その価値観を「絶対的な善と考える」ことは区別しなければいけないわけです。

悩みや苦しみは特定の価値観から生まれていますから、価値観や「当たり前」に絶対はないことを知ると、悩みから解放されて楽になるはず。それが、この本の狙いです。(166ページより)

しかし価値観に「絶対」がない以上、自分が否定したい価値観もまた、認めなければならないということになります。

それはつらいことではありますが、だからこそ「古典を学ぶ」べきなのだと著者は訴えているのです。

悩みの答えを出すためのヒントは、古典のなかにあるのだと。

歴史上にはたくさんの頭の切れる人や優れた人格の人がいて、あなたが今、直面しているような問題にはすでに答えを出していたり、少なくとも重大なヒントを残していたりするんです。(175〜176ページより)

「だから、古典を読むべきだ」という考え方。古典を読めば、過去の天才たちの頭を借りて、自分の課題や悩みに向き合うことができるということです。(166ページより)

価値観は絶対ではなく、場所や時代によって変わるもの。だからこそ大切なのは、私たちにとっての「当たり前」が、必ずしも当たり前ではないのだと理解すること。歴史を知るというのはそういうことなのだと著者はいいます。

僕はそれを、「メタ認知」と呼んでいます。

「メタ」は超えるという意味なので、「メタ認知」は今の自分を取り巻く状況を一歩引いて客観的に見る、といった意味です。

悩んだり苦しんだりしている人は、近視眼的になっていることがほとんどです。

メタ認知力があれば、目の前にある悩みにとらわれずに済むこともあるはずです。だって、悩みの原因になっている「当たり前」が当たり前じゃないことに気づけるんですから。

そして、歴史を知ることによるメタ認知のことを、この本では「歴史思考」と呼びます。(19〜20ページより)

なぜなら歴史を知ること、そして「歴史思考」を身につけることは、悩みから解放されることでもあるから。そんな考え方に基づく本書は、悩みから抜け出すために役立ってくれるかもしれません。

Source: ダイヤモンド社

メディアジーン lifehacker
2022年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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