『部下 後輩 年下との話し方』
- 著者
- 五百田達成 [著]/五百田達成 [著]
- 出版社
- ディスカヴァー・トゥエンティワン
- ISBN
- 9784799328446
- 発売日
- 2022/05/27
- 価格
- 1,650円(税込)
部下・後輩・年下との会話に悩んだら、職場で実践したい2つのコツ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『部下 後輩 年下との話し方』(五百田達成 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者によれば、いま、この国では「年長者が年少者から無条件に敬われる」という旧来の上下関係が揺らいでいるのだそうです。
その原因として挙げられているのは、「働き方の変化」「SNSの隆盛」「ハラスメント・炎上」の3点。雇用形態が多様化し、「年上の部下」や「社歴の浅い先輩」が珍しくなくなったこと、SNSのおかげで人間関係がぐっと広がったこと、そしてセクハラやパワハラなどに焦点が当たるようになったことーー。
これらの影響で「古い上下関係」が揺らぎ、「新しい人間関係」に移り変わるのに伴って、「上と下との会話のあり方」も大きく変わり始めているというのです。
だとすれば、「新しい関係」に即した「新しい話し方」をすればいい。それこそが、本書が提唱している「部下・後輩・年下との正しい話し方」だということです。
そこでこの本では、これまで存在した二つの話法、
1 「上」の人と話す「敬語」
2 同じ立場の人と話す「タメ口」
にプラスして、近年必要とされている「第3の話法」、
3 「下」の人とうまく関係を築く話し方
にフォーカスを当ててアドバイスします。
長年、コミュニケーションや話し方について研究・リサーチしてきた結果をもとに、分かりやすい事例とエピソードを交えながら解説。「身につけるべき正解」と「避けるべき不正解」を解き明かしていきます。(「はじめに」より)
きょうは第2章「仕事・職場編」のなかから、2つをピックアップしてみたいと思います。
部下や後輩に注意するときはストレートに
×遠回しに注意する
◯ストレートに注意する
部下・後輩・年下に注意するとき、遠回しにさりげなく注意しようとする人がいるもの。その根底には「口うるさくいうと嫌われるかもしれない」「気まずくなるのを避けたい」などの理由があるのでしょうが、著者によればそれは“不正解”。
なぜなら、注意される側からすれば、「叱られるんだろうけど、なにをいいたいのかわからない」ということは苦痛でしかないから。
ましてや、まわりくどい話をされれば、わずか5分間であってもうんざりして当然。「自分が嫌われたくないから」と時間をかければかけるほど、かえって「ネチネチした人」というような印象を与えてしまうわけです。
部下・後輩・年下に注意するときは、論理立ててズバッと伝えるのが正解です。
「最近あいさつの声が小さいかな。人間関係の基本だからしっかりやろうね」
「経理精算が遅れると、部全体に迷惑がかかるんだよね。次回から気をつけて」
「服装、もう少しちゃんとしようか。めんどうだろうけど、規定だからさ」
そのほうがむしろ、「気持ちのいい人」と好感を持たれますし、「これは本気だ、気をつけないと」と背筋も伸びます。(58〜59ページより)
「傷つけないためのフォローのことば」を伝えるのは、注意そのものを終え、いったん会話が一区切りしていることを確認したあと。
解決策を一緒に考えるような態度で、「なにか理由あるの?」「わからないところはあるかな?」というように尋ねるといいそうです。(56ページより)
距離が近くなりすぎたら、敬語を使う
×「やめてよ〜」と冗談めかして注意する
◯「やめてください」と敬語で注意する
距離感が縮まって親しくなった結果、部下・後輩・年下のほうがなれなれしくなってきたりすることがあります。そんなとき、「ことを荒立てたくないから」と自分が我慢してしまうのは“不正解”。
「上」と「下」というのは業務上のシステムですが、こういう場合はそのシステムが崩れ、仕事に影響を与える可能性があります。
「親しい人づきあい」と「仕事のモラル」は混同すべきではなく、どこかできちんと一線を引く必要があるわけです。
部下・後輩・年下から、なめられたり軽んじられたりしたときは、その場は空気を読んでスルーしてもかまいませんが、後日メールで、改善を要求するのが正解です。
「何度も言いましたが、リミットは◯日です。最優先でやってください」
「これ以上続くようだと、他の人にお願いすることになります。自覚してください」
敬語には「相手との心理的距離を遠ざける」効果があります。あえて丁寧に敬語を使い、近づきすぎた距離を一度リセットします。(62ページより)
文面はサクッと短く、シンプルに。そうすることで「私は本気で改善を望んでいる」というキッパリとしたニュアンスを出すことが可能。
「こっちもちゃんと伝えなかった」「怒っているわけではない」と言い訳を書きたくなっても我慢すべき。フォローしたければ、すぐあとに「で、例の件だけど〜」と他の業務連絡を送れば、後腐れがないことをアピールできるといいます。
当然ながら、それを機に関係が一時的に冷え込むことは考えられるでしょう。以前の気さくな関係には戻れなくなるかもしれません。だとしても、もし相手が反省してくれ、プライベートでの良好な関係を続けてくれたなら、それがベストだということです。
「そもそも、ここまでこじれてしまったのですから、もう“ダメ元”でメスを入れるしかありません」という著者の主張は、心にとどめておくべきではないでしょうか。(60ページより)
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本書において著者が目指しているのは、「凝り固まった上下関係に縛られない、対等な個人同士のフェアで気持ちのいい信頼関係」だそう。
したがって、部下との距離感に悩むベテラン管理職や、後輩ができたばかりの若手社員、さらには年下と話すことに苦手意識を持っているすべての方にとって、大きく役立ってくれるのではないかと思います。
Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン