「自分自身が悪意の担い手にはなりたくない」 「クラン」シリーズの作者・沢村鐵が語る

インタビュー

8
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿

『謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿』

著者
沢村 鐵 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575525694
発売日
2022/05/12
価格
726円(税込)

書籍情報:openBD

史上空前のSNS犯罪《#謎解きジャスティス》の正体とは? 警察小説×ダークロマンの傑作誕生! 沢村鐵『謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿』刊行記念インタビュー

[文] 双葉社

警察内部の巨大な闇を描いた「クラン」シリーズ、近未来の日本警察が世界を救う「世界警察」シリーズ(いずれも中公文庫)、異端の天才捜査官が活躍する「極夜 警視庁機動分析捜査官・天埜唯」シリーズ(祥伝社文庫)など、警察小説シリーズのヒットを連発している作家・沢村鐵さん。これまでにない大きなスケールと世界観、オリジナリティ溢れるキャラクターが読者の心を掴み、新たな警察小説の旗手として注目を集めている。

その沢村さんが新たに挑んだのは、ダークロマンと警察小説の融合。もともとは青春小説『雨の鎮魂歌(レクイエム)』でデビューし、『封じられた街』『十方暮の町』など、ホラーやファンタジーを多数発表しており、今作『謎掛鬼(なぞかけおに)』は得意なジャンルをミックスさせた新境地の作品となっている。常に新しい世界観に挑戦する理由とは? 作品に込めた思いと創作の裏側を沢村さんにうかがった。

 ***

──本作は主人公の新米刑事・小野瀬遥が黄昏の光に満ちた町に迷い込み、警視庁管轄には存在するはずのない派出所の、死んだはずの若き巡査と共に数々の難事件に立ち向かう連作短篇です。警察小説は様々な作品がありますが、まさに新感覚。警察小説にダークロマンを融合させた理由を聞かせて下さい。

沢村鐵(以下=沢村):これはもう、担当編集者さんの提案がきっかけです。これまで、小説を世に送り出す立場として、どうしても“ジャンルの壁”というものを感じていましたが、「壁を無視してみては?」という投げかけを頂いた瞬間にこの物語は生まれたと言ってもいい。感謝しています!

この物語をきっかけに、読者のみなさんには、ジャンルにこだわらずに読んでもらえると嬉しいです。仕方なくジャンル分けしているだけで、実は沢村鐵ワールドはすべて繋がっています。その繋がりを見つけることを楽しみの一つにしていただけたら嬉しいです。それこそ、私からみなさんへの謎掛けです。

──遥は上司の晴山旭と共に難事件にぶち当たります。第2話の「癒やし人 殴り人」では都内の各地で歩いているところを後ろから狙われる連続闇討ち事件を扱い、謎の元地下アイドル占い師・陽気妃と対峙する。第3話では警視庁を揺るがすSNS犯罪「#謎解きジャスティス」が発生し、被害者が謎掛け形式で名指しされる悪夢のような連続殺人事件でした。いずれも犯人は異界の闇と繋がっている。こうした不可解な事件を着想したきっかけは何だったのでしょうか?

沢村:巻末の解説で池上冬樹さんにも触れていただいていますが、キーは“悪意”だと。我々も、いきなり振り向けられる悪意にうろたえ、慌てふためき、深く傷つきます。見ず知らずの人間からの悪意も怖いですが、知っている人、身近な人からのものだったらダメージは桁違いになる。でも、生きていれば、誰もが必ず直面することですよね。

その悪意の“根源”みたいなものに、遥は立ち向かって行かなくちゃならないんだろう。そう考えたら、自然発生的に事件の輪郭が見えてきました。

しかし、しみじみ思うのは、自分自身が悪意の担い手にはなりたくないということです。だが、そう願っていても、いつしかダークサイドに落ちそうになる時もある。遥は幸運にも“道案内”に出会えましたが、我々だって頼りになる道案内を見つけたい。だから、ふだんからいろんな物語や芸術作品に触れ、歴史や学問から学び、道を見失わないようにしなくてはならない。しんどいですが、不断の努力が必要なのだと思います。

──本作の読みどころのひとつは、晴山旭と若き派出所巡査の登場です。この2人は沢村さんの大ヒット作「クラン」シリーズで活躍した重要なキャラクター。「クラン」既読の読者にとっては、彼らのその後が楽しめるので嬉しいことこの上ないですが、本作にも登場させた理由を教えて下さい。

沢村:本作は、時系列としては「クラン」シリーズの後の話になりますが、「クラン」そのものが多面性を持っていました。あくまで《警察小説》というレンズで覗いた物語が「クラン」だとしたら、今回は全く別のレンズも組み合わさっている。

同じ警視庁、同じ世界線上の物語でありながら、遥ひとりが加わったおかげで大きく違って見える、ということかもしれません。

──遥しか訪れることのできない黄昏署と黄昏派出所。まだまだ謎多き世界で、次回作も期待してよいでしょうか? 構想などあればぜひお願いします。

沢村:「クラン」の“サバイバー”である晴山旭は、大変な目に遭わされ、愛憎半ばする因果な“警察”という職場に留まると肚を括りました。その生き様に敬意を払い、新たな大渦に飛び込んでもらうことにしました(笑)。

そして遥は、ただの刑事ではない。犯罪を超えた“闇”と闘うことを運命づけられた女性です。まだ若くて修業中ですが、きっとこれから、手に負えないような恐ろしい悪と渡り合うことになる。同情しつつ、応援するしかないと思っています。

 ***

沢村鐵(さわむら・てつ) プロフィール
1970年、岩手県釜石市生まれ。2000年『雨の鎮魂歌』でデビュー。著書に「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」「クラン」「極夜」「世界警察」のシリーズのほか、『ミッドナイト・サン』『封じられた街』『十方暮の町』『あの世とこの世を季節は巡る』『はざまにある部屋』などがある。

COLORFUL
2022年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加