あの頃、そして今もいつの時代も輝き続けるコバルト文庫のスターたち

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あの頃、そして今もいつの時代も輝き続けるコバルト文庫のスターたち

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

「大人が読んでいる活字の小さい本」に興味を持ち始めた十歳前後の頃、コバルト文庫(当時の名称は集英社文庫コバルトシリーズ)は、少女の心に寄り添ってくれる「わたしたちの文庫」だった。

 レーベルにおけるスター作家のひとりが氷室冴子。去年から復刊が相次いでいて嬉しい限りだ。中でも、結婚をめぐる母親との衝突を綴ったエッセイ『冴子の母娘草』は、文章が孕む熱に圧倒され、読みながら何度も声が出てしまった。

 テレビ番組の占いコーナーに母が出演し、娘に良縁はあるかと相談する。しかも二度までも。それを知った娘は外出先のトイレで声を殺して泣き、三日間仕事を放擲して絶縁状を書く。

〈世の中には、いろんな人がいる。それを認めるのも、世の中の、たいせつな約束ごとです〉と諭し、〈わたしは結婚しなくても、とっても幸福なのだとだけ、いいます〉と告げる。母がこの手紙にどう反応したかはぜひ読んでいただきたいのだが、惚れ惚れしたのは「おばちゃん、結婚できなくてかわいそうだね」と言う十二歳の姪に、著者が「大人の値打ち」について力強く語る場面だ。氷室冴子、なんて格好いいんだろう。しみじみ、うっとりした。

 氷室冴子に憧れてコバルト・ノベル大賞に応募したと明かしているのは須賀しのぶ。大正十二年の浅草が舞台の『くれなゐの紐』(光文社文庫)は、姉を探すために少女ギャング団の一員となった少年と、彼をとりまく仲間たちの物語だ。十代なのに既に人生を生き直している彼らの、泥臭い闘いが胸に迫る。

 コバルト文庫のスターと言えば、新井素子も忘れてはならない。デビュー作『あたしの中の……』(コバルト文庫)は、バス事故で記憶を失った十六歳の少女の体の(頭の)中に死んだ人間たちが入り込むという、かしましくイキのいいSF。初読時は、自分とそう年の変わらない女子がこんな話を思いつくなんて、と感嘆のため息をついたが、再読して、デッドエンドの結末をこんなに明るく書いていたのかということに驚かされた。

新潮社 週刊新潮
2022年7月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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