「なんのために働くのか?」世界の哲学者たちが考え導きだした3つの答え

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世界が面白くなる!身の回りの哲学

『世界が面白くなる!身の回りの哲学』

著者
小川仁志 [著]
出版社
あさ出版
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784866673790
発売日
2022/11/14
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「なんのために働くのか?」世界の哲学者たちが考え導きだした3つの答え

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

もともと哲学は賢者たちが悩み、考え抜いた結果ですから、人生相談や悩み相談に使えそうな英知が詰まっていることは想像に難くないでしょう。

さらに、歴史上の哲学者たちは個人的な悩みだけではなく、社会問題や事件についても考えてきましたから、それらを現代の問題にも適用することが可能です。(「プロローグ」より)

世界が面白くなる! 身の回りの哲学』(小川仁志 著、あさ出版)の著者はこう述べています。しかも、着目すべき点はそれだけではありません。哲学は近年、ビジネスの世界でも注目を浴びているというのです。それは、不確実な時代にこそ、より主観を重視した創造的な思考が求められているからなのだとか。

哲学の創造的思考は、新たなサービスや商品を生み出すためにとても有効だというのです。いいかえれば、哲学はイノベーションを実現するポテンシャルを備えているということ。そのため、哲学によって新しいものを生み出すことが可能なのだと著者は主張しているわけです。

そして本書の特徴は、6つのカテゴリーのなかに5つずつ主要なテーマが入った構成になっていること。それぞれのテーマについて、3〜5人の哲学者の考えが紹介されており、著者自身の考え方も付記されているのです。したがって、各テーマをより広い視野で把握することが可能。

人によって考え方は異なりますから、哲学の結果、つまり物事の本質も人によって違うのです。どれが正しいと思うかは、自分次第です。(「プロローグ」より)

こうした考え方に基づいて書かれた本書のなかから、きょうは第5章「人生を哲学する」内の5-2「仕事」に注目してみたいと思います。「なんのために働くのか」という命題についての、哲学者たちの考え方を紹介したパートです。

G.W.F.ヘーゲル(1770〜1831年)

近代ドイツの哲学者であるG・W・F・ヘーゲルは、「人は誇りのために働く存在である」と説いたそうです。人間にとっては市民社会こそが社会、つまり「生きる場」であると考えていたわけですが、そこは「働くための場」でもあったということ。

人々が自分の役割を果たすことにより、互いに支え合っている状態こそが市民社会の本質。そう考えたわけで、その本質をヘーゲルは「誠実さ」と表現しているのだといいます。

市場で誠実に取り引きをする、誠実に働くことによって、私たちはひとかどの人物になるというわけです。

ひとかどの人物とは、周囲から認められる存在ということです。言い換えると、周囲からの承認が誇りとなって、生きる勇気を与えてくれるのです。(165ページより)

したがってヘーゲルの論を借りれば、「働くのは、誇りを得るためだ」といっても過言ではないということになるわけです。(164ページより)

エリック・ホッファー(1902〜1983年)

しかしその一方、社会において周囲から認められることを第一義としない人もおり、そういう人はむしろ、自分が自分を認めることを大事にしているように思うと著者は記しています。たとえば、自分を愛することを重視していたのが、アメリカの哲学者であるエリック・ホッファー。

ホッファーは港湾労働者として働き続けながら、哲学者としても名をはせた異色の存在です。

彼は、生きるために港湾労働者として働いていました。しかし、哲学者として有名になり、大学からの誘いがあっても大学教授の職より、働く量や時間を選べる港湾労働者として自由に働くほうを選んだのです。

つまり、彼は自由を最も大切にしていたのです。(165〜166ページより)

事実、ホッファーは「自由、閑暇(かんか)、運動、収入のバランスが取れていること」を理想としていたそう。自由に働き、自由時間があって、適度に運動ができる。そんな働き方を求めていたわけです。そしてその自由時間に、本を読み、哲学書を書き続けたのです。

つまりヘーゲルは誇りと社会に認められることを重視し、ホッファーは自由を望み自分を愛することを重視したということ。しかし、人間が仕事をするうえで、もうひとつ欠けている視点があるのだそうです。(165ページより)

ハンナ・アーレント(1906〜1975年)

その点について問題提起を行ったのが、ドイツ出身のユダヤ系哲学者であるハンナ・アーレント。現代の公共哲学の祖とも称される人物であり、そう呼ばれるきっかけになった著書『人間の条件』のなかで、人間の営みを次の3つに分類しているのだといいます。

・労働(レイバー)

・仕事(ワーク)

・活動(アクション)

(166〜167ページより)

労働とは、生活に不可欠の営み。たとえば家事のようなものです。仕事とは労働よりもう少し創造的な営みであり、一般的に私たちが“仕事”と呼んでいるもの。そして活動とは、見知らぬ人々と交わり、なにか一緒に行動すること。地域活動や政治活動がそれにあたるでしょう。

アーレントは、これら3つをセットとして人間の営み、すなわち広い意味での仕事として捉えていたのだそうです。

なかでもアーレントが指摘しているのはその割合。私たちはつい労働と仕事のルーティンに追われ、それ以外の活動を後回しにしがち。しかしアーレントは、個人にとっても社会にとっても、それはマイナスだと主張しているのです。

なぜなら個人にとってそれは多様な人と出会い、思考する機会を失うことになり、そういう人ばかりで構成される社会は非常に危ういものになってしまうから。

そして、これらを認識したうえで改めて「なんのために働くのか?」という疑問に立ち返ると、それは「個人と社会を健全な形で育んでいくための営み」といえるかもしれない。著者自身は、そのように考えているようです。(166ページより)

著者は読者に対し、「ぜひ自分で哲学をしていただきたい」とメッセージを投げかけています。それぞれのテーマについて、歴史上の哲学者や著者がどんなふうに考えているかを知ったあと、「自分ならどうか」と考えてみることこそが大切だから。

ポイントは、疑って、視点を変えて、再構成するということ。そうしたアプローチを実践することで、いままで気づかなかった大切なことに気づけるかもしれません。

Source: あさ出版

メディアジーン lifehacker
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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