「“推し疲れ”は自分のせい」推し活歴23年の漫画家が語るアクセルとブレーキの踏みどころ

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イケメンに会えない今、私たちはどう生きるか。

『イケメンに会えない今、私たちはどう生きるか。』

著者
竹内佐千子 [著]
出版社
ぶんか社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784821146420
発売日
2022/11/10
価格
1,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「“推し疲れ”は自分のせい」推し活歴23年の漫画家が語るアクセルとブレーキの踏みどころ

[文] 新潮社

今や「推し活」は一大ブームとなっている。「推し」を応援する活動である「推し活」が、生きがいとなっている方も多いのではないだろうか。「推し」の対象も好きな芸能人やアイドル、アニメなど様々で、何かに夢中になることを「オタク」として蔑まれることもあったひと昔前と違い、前向きに捉えられるようになった。そして今や、その市場規模は6000億円に及ぶと言われている。

そんな中、赤裸々すぎる「推し活」を綴ったエッセイ漫画『イケメンに会えない今、私たちはどう生きるか。』(ぶんか社)が発売された。
作者の竹内佐千子さんは、「40代」「独身」「実家住まい」「レズビアン」「腐女子」である事を公言していて、将来に不安を感じながらも仕事に邁進しつつ、日夜「推し活」に励んでいる姿が多くの読者の共感を呼んでいる。


著者・竹内佐千子さんと編集者・M田さんの叫びに共感

本作は、作者と担当編集M田氏が「イケメンが好きだからイケメンに会いに行く」をテーマにした人気シリーズの5冊目。これまでの二人は、「俳優の写真集お渡し会」「壁ドンカフェ」など様々な場所に繰り出しイケメンを推してきた。20年以上「推し活」を続けてきた、その道のプロともいえる竹内さんに、これからの「推し活」のススメを伺った。

余裕がない時は「現場」を諦める

――竹内さんは人生の半分以上を「推し活」に捧げてきたとのことですが、最初の「推し」は誰だったのでしょうか?

私の最初の推しはGLAYのHISASHIさんだと思います。高2のときに「高田馬場AREA(エリア)」というヴィジュアル系バンドの聖地的なライブハウスに連れて行ってもらってから本格的にヴィジュアル系バンドのおっかけを始め、それからアイドルや俳優、K-POPなど様々なジャンルを経て「推し活歴」は23年くらいです。


「推し」と一緒なら運動も頑張れると思ったけど……!?

――「推し活」をする際に竹内さんが心掛けていることはありますか?

ファン歴の長い古参ファンとしては今の現場(ライブ会場、握手会など)は根性がないとか、昔はああだったのにな~、という老害にならないようにしています。また、ファン歴の短い新規ファンとしては、知ったかぶりをしないこと、びっくりする文化やルールがあっても否定しないことです。

あと、「推し」に関するスキャンダルがあったら、とにかくSNSは見ずに友達にLINEして、直接会えたら会って話をします。きちんとしたソースが公式や本人から出るまでは発言を控えるようにしています。

――「推し活」には自分に合った処世術が大切なのですね。推し活をしていると、自分の暮らしが疎かになることはありませんか?

自分の生活と健康を第一に「推す」ことが1番大事だと思います。少し前に「推し疲れ」という言葉もSNSで飛び交いましたが、それは自分が疲れているだけです。自分の疲れの状態が見えていないことを「推し」のせいにしているだけなので、余裕がないなと思ったら後悔してでも「現場」を諦めて、友達と電話してお風呂に入って寝るよう気をつけています。ブレーキが壊れた車をアクセル全開で運転したら必ず事故が起きますから。

10代を推すと、セクハラしてる気分になる


ひと昔前の菅田将暉ブロマイドに怯える

――40代の竹内さんですが、10~20代の頃と比べて「推し」の傾向は変わってきましたか?

10代の子を推せなくなってきました。犯罪を犯している気分になります。あと「現場」に10代のファンの子が多いところに行けなくなってきました。セクハラしている気分になります。これはアラフォーになってはじめての感情です…。
もちろん恋愛対象としては見ていないけど、そう見られたらどうしようという気持ちが出てきたんです。年齢的に息子や娘でもないですし。40歳って微妙ですよね。10代の子を目の前にすると、「変な目で見ていないから安心して!ただのオタクのおばさんだから私は!」と叫びたくなるんですよ。たぶん10代は応援するというより「守りたい対象」になったのかと思います。

「コロナを気にしすぎ」と思われたらどうしよう

――制限も多かったコロナ禍での「推し活」で大変だったことはありますか。

行く予定だったライブに家庭の事情で行けなくなったりしたとき、「コロナを気にしすぎ」と思われたらどうしよう、とか悩んでしまうことが一番しんどいですね。実際そんなことで険悪になる友人はいないのですが、自分が気にしてしまう。知り合い程度の関係の方と、コロナへの考え方の違いでつらい思いをしたこともありました。「もう遠征していいだろ!」「まだだろ!」みたいな考え方の違いからです。

――コロナをどの程度気にするかは、人によってかなり差がありますからね。

疎遠、険悪、仲直り。友人との関係も様々に経験した「推し活」

――最近の「推し活」はいかがでしょうか。

2022年はすっかりバンギャル(ヴィジュアル系バンドの追っかけ)に戻りました。それまではミュージカル『テニスの王子様』やK-POPに夢中で、バンギャルは鳴りを潜めていたのですが、コロナ禍に1年限定で復活していた激推しバンドの活動が無期限延長みたいな状態になったり、さらに別のバンドが22年ぶりに今年復活したので、もうどっぷりです。これらはコロナで良かったことのうちの一つですね。

――「推し活」してきた中で、若気の至りだったなというエピソードはあったりするのでしょうか。

22歳くらいのとき、ライブハウスで元カノが新しい彼女といるのを見て、ライブ中バラード曲で泣いてたことです。

――それは泣けますね…。「推し」が同じだったからこそ起きた悲劇と言えましょう。他に、「推し友達」と険悪になった経験はありますか。

あります!何度もあります!でもそれを繰り返して23年、何があっても仲間しか残っていません(笑)。恋愛したり、出産したり、離婚したり、マルチにハマったり、いろんなことがきっかけで疎遠になったり険悪になることもありましたが、活動休止していたバンドが復活したり、新たな推しが出来たりすると、接点ができていつの間にかまた仲良くなってたりするんです。それを繰り返して「結局私たち20年一緒だね」という。最近だと、一回り年下の友人の妹と仲良くなりました。私がアキレス腱を痛めたとき、ライブ中に隣で支えてくれたりする友人もいます。介護です(笑)。今では、「私が死んだら葬式であの曲を流して」なんてみんなで話しています(笑)。

Book Bang編集部
2022年12月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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