「もう社会的にダメな人だよね」「首にタオル巻いた、ただのオヤジ」 椎名誠と目黒考二を「本の雑誌」編集部員が語る【前編】

インタビュー

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黒と誠 ~本の雑誌を創った男たち~(1)

『黒と誠 ~本の雑誌を創った男たち~(1)』

著者
カミムラ 晋作 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784575317534
発売日
2022/11/10
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「本の雑誌」創刊秘話マンガ『黒と誠』刊行記念座談会

[文] 双葉社


椎名誠と目黒考二(マンガ『黒と誠』より)

作家や映画監督として活躍する椎名誠と書評家・北上次郎名義でも知られる目黒考二の二人を中心に創刊された「本の雑誌」。従来の書評誌にはなかったエンタテインメント志向、独自視点の特集、新しい執筆者の発掘などで好評を得て、現在も根強い人気を誇っている「本の雑誌」はどのように生まれたのか?

70年代もっとも出版と雑誌が熱かった時代に創刊され、現在も続く書評誌の草創期を描いた漫画『黒と誠~本の雑誌を創った男たち~』(双葉社)の刊行を記念して、「本の雑誌」の編集長や営業担当など5人が、椎名誠と目黒考二という人物について語った。

***

【座談会出席者】
浜本茂…「本の雑誌」の発行人・編集長
杉江由次…営業担当
松村眞喜子…「本の雑誌」の編集担当
浜田公子…事務全般担当
前田和彦…単行本の編集担当

***


「本の雑誌」を創った男・椎名誠!!(マンガ『黒と誠』より)

──最初に『黒と誠』を読んだ感想についてお願いします。

浜田:もう嬉しくてね。本当に更新日が待ち遠しくて。2つの話(目黒考二の『本の雑誌風雲録』と椎名誠の『本の雑誌血風録』)を合体させて、こんなにちゃんとした物語になるとは思わなかった。しかも、椎名(誠)さんも目黒(考二)さんも若くてカッコいい。

杉江:俺たちが最初に目黒さんに会ったのは25年前の入社のときで、目黒さんは40歳を過ぎていたんだよね。椎名さんの若い頃はメディアを通じて知ってるけど、目黒さんの若い頃は写真でしか知らないから……。

浜田:目黒さんは若い頃の写真をいつも隠し持っていて、「俺の若い頃は痩せてて凄かったんだよ」「俺にもこういう頃があったんだよ」って。

松村:確かに『黒と誠』に出てくる目黒さんはすごくトガってて、ただならぬ人じゃない?

浜田:でも、私たちから見たら、いつも変な半ズボンみたいなの履いてるしねぇ。

杉江:首にタオル巻いた、ただの町のオヤジだからね(笑)。

浜本:マンガの中でも最初は本当にダメ男だったのが、途中からすごくちゃんとした社会人っぽくなっちゃって。『黒と誠』のタイトルは『愛と誠』から取ったと思うんだけど、目黒さんと椎名さんの、2人のあの関係性を、よく読み解きましたよね。

杉江:目黒さんは「椎名はおれの裕次郎だ」って言ってるくらいだからね。

浜田:石原軍団の渡哲也にとっての石原裕次郎ってことでしょ?

浜本:その関係性がマンガから伝わってくるのがすごいよね。

──『黒と誠』の椎名さんと目黒さんと、実際のお二人を比べたときに、ここは違うなという部分はありますか?

杉江:やっぱり見た目がカッコ良すぎるよ(笑)。

浜田:椎名さんも自分でそう言ってましたね。

浜本:椎名さんは若い頃から本当にあんな感じで、周囲の人を惹きつけるタイプだったと思いますよ。でも、当時に近い時代を知る者として、目黒さんについてはちょっと承服できないというか……。

一同:爆笑

──目黒さん自身は「おれはもっと格好良かった」って、別の意味で承服されていないようでしたが(笑)。

杉江:椎名さんは、「いつ会ってもカッケーなぁ」っていうのはあったけど、目黒さんをかっこいいとは思ったことは一度もないね(笑)。25年前の入社時から、ただの一度もない(笑)。浜本さんは『黒と誠』の時代の5年後くらいには目黒さんと会ってるわけでしょ? もうああいう感じではなかった?

浜本:目黒さんの最初の印象は、青年実業家みたいだったな。喋り方からして、凄くデキる人に見えた。当時は今の半分ぐらいの体型でシュッとしてて、黒いスーツにボウタイをしていて。僕が入った頃はちょうど「本の雑誌」が上り調子の時期だったから。「ああ、この人が作ってるんだ、かっこいいなぁ」って思ったよ、正直。

一同:おお~!。

浜本:でも、そう思ったのは最初の2か月だけだった(笑)。

杉江:あと、沢野(ひとし)さんの描かれ方が絶妙だったね。本人がどう思ってるかわからないけど、あの謎な感じも含めてドンピシャだよ。

浜本:雰囲気が似てるっていうか、ほぼ同じだよね。あれは誰が見ても沢野ひとしだよ。『風雲録』や『血風録』の沢野ひとしの描かれ方はデフォルメされてると思われてそうだけど、あれが実像なんだよ。あのまんまの人だってこと。

杉江:それがマンガになると文章以上にダイレクトに伝わってくる。

松村:椎名さんは沢野さんと付き合いが長いから、「これだから沢野は」みたいに下げて書いているように読めるけど、マンガになると身も蓋もなく真相を書いていることが伝わってきますよね。


本が読めないから会社を辞める目黒考二(マンガ『黒と誠』より)

──『黒と誠』と、その原作になった『本の雑誌風雲録』『本の雑誌血風録』の中で、好きなシーンについて教えてください。

浜本:僕が好きなのは、『風雲録』の冒頭の(「本の雑誌」の第一号が)「出来たよ」っていう。あそこがやっぱり一番ですね。

杉江:あれは良かったですよね。映画化するなら絶対に外せないシーン。

浜田:グッとくるところだね。

杉江:僕は「本の雑誌」の書店営業が嫌になった目黒さんが、市ヶ谷の土手で公園のブランコに座るシーン。あそこはすごく好きですね。僕も営業をやっているから、同じような経験があるんですよ。

浜本:あれは分かる。

杉江:沁みるよね。どんなに夢中でやっていてもそう思う時はある。あれを後から振り返って書けるのが目黒さんの偉いところだよ。普通はカッコつけて書きたがらない。

浜田:目黒さんや椎名さんも凄いけど、私にとってはこれから出てくる助っ人たちも憧れの人だから。群(ようこ)さんや吉田(伸子)さんや窪木(淳子)さんが、これからどんなふうに描かれていくのか、凄く楽しみ。

杉江:ここから登場人物が増えて群像劇になっていくからね。この中では松村は『風雲録』に出てくる助っ人で、「ダイナマイトコンビ」のひとり、吉田伸子さんから直接仕事を教わってる。

松村:吉田伸子さんがご出産で辞められることになって、私はその代わりとして採用されたんですよね。

杉江:あとは最初の方にしか出てこないけど、双葉社の本多健治さん。

前田:「第3の男」みたいな登場の仕方で、すごくカッコいいんですよね。

松村:「おれにも一口乗せろ」って名台詞だよね。

杉江:機会があったら俺も使ってみたいと思ったもん(笑)。足りないピースを埋めるために出てきた、隠れたヒーローみたいな人だからね。この人がいなかったら「本の雑誌」は生まれてなかったと思う。僕は本屋大賞を作るときに、あるご縁で本多さんとお会いしたことがあるんだけど、本当にあのままの人で、新しいことが好きなんだろうね。「それやったらいいよ!」って言ってもらえて、すごく感動したことを覚えてる。

松村:私が印象に残ってるのは、目黒さんがストアーズ社を辞めるって言い出して、椎名さんがショックを受けるところですね。それまでの目黒さんは真面目な読書好きの青年で、働く気はないみたいだけど、まあ今でもこういう人っているよね……と思ってたら、突き抜けてヤバい人であることが分かってしまった(笑)。辞めた会社で作った定期券をいっぱい持ってるとか、もう社会的にダメな人だよね……。

杉江:定期券の話もデフォルメしていると思われてそうだけど、目黒さんに聞くと「あぁ、持ってた持ってた」って普通に言うからね(笑)。分かっていたつもりだったけど、マンガで読んで本当にダメな人だったんだなぁと改めて思った(笑)。いや、これはヒドいと。あんな人が会社に入ってきたら嫌だよね(笑)。

浜本:辞めるのを引き止めようとした椎名さんもある意味すごい(笑)。

浜田:さらにこの後、チンチロリンにハマっちゃったりして。

浜本:椎名さんと出会わなかったら、目黒さんはどうなってたんだろうね。

浜田:自分でもよく言ってるけど、本当にそうだよね……。

***

【後編に続く】締切過ぎて作品の代わりに「カステラ」を届けた天才イラストレーターとは? 微妙にイラッとする仰天エピソードを「本の雑誌」編集部員が語る【後編】

取材・文=菊池俊輔

COLORFUL
2022年11月12、13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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