『みがわり』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『ミザリー』
- 著者
- スティーヴン・キング [著]/矢野 浩三郎 [訳]
- 出版社
- 文藝春秋
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784167705657
- 発売日
- 2008/08/05
- 価格
- 1,089円(税込)
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「書くこと」をテーマに刻々と変わり続ける物語たち
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
青山七恵『みがわり』の主人公は無名の新人小説家、園州律。ファンだと名乗る九鬼梗子から、前年に亡くなった姉・百合の伝記執筆を依頼された彼女は、九鬼邸に通い、さらには生前の百合の住まいなどを訪れ、情報を集めていく。
律が執筆する伝記が随所に挿入されており、新事実を得るたびに伝記の視点人物も文体もガラリと変わるのが楽しい。マイペースな律自身の語りものびやかでユーモアたっぷりなのだが、物語は少しずつ不穏な空気を帯び、やがて意外すぎる展開に。これは姉妹の謎を解き明かす物語というより、「書くこと」が大きなテーマだったのだと気づかされる。
読んでいる途中でふと思い出したのはスティーヴン・キングの『ミザリー』(矢野浩三郎訳、文春文庫)だ。こちらは人気小説家が主人公。雪道の自動車事故で両足を骨折したポールは、元看護師だというアニーという女性に助けられる。彼女はポールが執筆するミザリーという女性が主人公のシリーズの大ファンで、看病だと言いつつ彼を監禁。さらには彼が持っていた新作の原稿を勝手に読み、結末を書き直すよう強要してくるのだった。
ポールがアニーのために結末を書き直した小説が作中作として登場、こちらもまた、作家が置かれた状況が創作に影響する様子がうかがえて興味深い。
デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』(青木千鶴訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)では、複数のペンネームでSFやヴァンパイアものなどジャンル小説を書き分ける作家、ハリー・ブロックが死刑囚から依頼を受ける。残酷な手口で4人の女性を殺し、刑の執行を控えたダリアン・クレイが、事件の真相をハリーにだけ打ち明けるというのだ。だがそれには交換条件があり、ハリーはやむなくダリアンの元にファンレターを送ってくる女性たちに会いに行くのだが……。
本作でも、主人公が書く小説が挿入されるうえ、創作に関する思いや悩みが綴られていく。描かれる事件は正直おぞましいが、軽妙な語り口で一気に読ませる。