秀吉のキラキラした“いい男っぷり”を楽しんでください!

エッセイ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

たらしの城

『たらしの城』

著者
佐々木功 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915094
発売日
2023/01/24
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

秀吉、たらして城づくり!? 

[レビュアー] 佐々木功

 変な奴を書くのは痛快だなあ、と、光文社さんでの前作『天下一(てんかいち)のへりくつ者』にて思ってしまったのです。いや、中毒になったのかもしれません。

 だから、あれを上回る変な奴のことが書けないか、どこかにいないかな、変人(笑)、と探して、前作で主人公と対決した秀吉が思い浮かびました。あいつこそ、戦国史上最高の奇人変人でしょう。でも、最近の秀吉といえば、「ズル男(おとこ)」「悪(ワル)」と描かれるばかり。せちがらい世の中です。奴の「いいところ」を満載した話があってもいいじゃあないですか。

 よし、では、ネタはどうしましょう。やっぱり若き秀吉といえば、墨俣一夜城(すのまたいちやじよう)。まあ、いろいろ伝説めいた城だけど、あれには、秀吉の輝きが詰まっているよなあ……。

〈秀吉が一夜城を築いたという話には、それが史実であることを窺わせる史料的な裏付けがない。今後、そうした史料が見出せぬ限り、秀吉が築いたという墨俣一夜城は、実在しなかったと判断せざるを得ない〉Wikipedia【墨俣城】より

 こんな風に書かれていると知って、悲しくなりました。思えば、墨俣城をググったのは初めてかもしれません。若い方がネット検索で知るなら―胸がしめつけられますね。

 では、私のような少年期に『太閤記(たいこうき)』を読んで心躍らせた歴史ファン、歴史小説ファンは、いったい、どうすればいいのでしょう。そして、我々日本人のほとんどが知り、皆がだいたいこんな感じ……と思っている「豊臣秀吉」の輝かしき栄光譚はどうなるのでしょうか。

「史料がないから」「書かれている史料が胡散臭(うさんくさ)いから」、それで、終わらせていいのでしょうか。いや、わたしは「小説家」のはしくれ、いいはずがない!

 ……そんなことで物語ができました。

 みなさん、これを機に、いま一度、墨俣一夜城について語り合ってみるのはいかがでしょうか?

光文社 小説宝石
2023年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク