コロナで同居する女性二人 宙ぶらりんな年齢の焦燥
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
一昔前には想像できなかったくらい、現代社会は「多様性」が広がっている。仕事、恋愛、趣味……個人の意向が尊重されるようになり、救われた人もいるだろうが、従来の価値観は簡単にはなくならない。
本書はコロナ禍で二人暮らしを始めた平井と菅沼の日常が淡々と描かれる。平井は小さな印刷会社の経理係、菅沼は副業として3Dプリンターで飼い主向けに亡くなったペットの犬のフィギュアを作っている。
平井と菅沼は、お気に入りのアイドル「KI Dash」のDVDを鑑賞して語り合う。気の合う同性との同居は心地よさそうだが、二人には互いに明かしていないこともあった。
女性として生まれれば、その機能がついてくる。しかしそれを使わないまま、あるいは機能不全である場合、どこか欠けた存在と自分を卑下してしまう。そういう意味で平井と菅沼の体は「がらんどう」だ。菅沼が作り続ける3Dのフィギュアはその隠喩だろう。
「結婚もしてないし子供も産んでないから、いつまでも子供みたいなのかな」
誰も好きになれない平井は、妊娠を望んでいた。それが本気なのかは微妙だ。三十八歳という宙ぶらりんになりがちな年齢は、この先の人生の行き先を定めたくもなる時期。当人にしかわからない焦燥が滲む。
一方、「結婚はしない」という菅沼は家を空けて恋人の元へ行く。そんな行動に平井は不安を覚える。
ひとりで生きていくのに、がらんどうは耐えがたい。同じがらんどうの相手と居たいということか……。
コロナ禍でできた人との距離は、ひとりでいる自由と、誰かといたい気持ちを増幅させた。どちらも満たされることはなく、いくつになっても葛藤は終わらないのだと思う。
多様な属性のどこにも自分の居場所がなくても、今生きていることだけは確か。ラストはかすかな光がさす。