なぜ夢を見るのか?夢とはなにか?夢が持つ「生きる」ために重要な役割とは

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1万人の夢を分析した研究者が教える 今すぐ眠りたくなる夢の話

『1万人の夢を分析した研究者が教える 今すぐ眠りたくなる夢の話』

著者
松田 英子 [著]
出版社
ワニブックス
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784847066825
発売日
2023/02/08
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

なぜ夢を見るのか?夢とはなにか?夢が持つ「生きる」ために重要な役割とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

平日に更新している「毎日書評」に加え、4月からは毎週土曜日に「毎週新書」としておすすめの新書をご紹介していきたいと思います。

ちなみにきょうは4月1日ですが、エイプリル・フールのジョークではありません。

ということで第1回目の本日にピックアップしたのは、『今すぐ眠りたくなる夢の話』(松田英子 著、ワニブックスPLUS新書)。1万人の夢を分析してきたという東洋大学社会学部社会心理学科教授が、夢の研究の最前線を明らかにした一冊です。

そもそも夢とは記憶情報の処理過程のことで、私たちは毎晩、複数の夢をみています。

「実は(誰でも)毎日夢をみているんですよ」というと、多くの方が驚かれます。

覚えている頻度は人によってさまざまですが、夢の記憶は儚いもので、「夢をみたことを覚えていない」、あるいは「思い出そうとしたけれど忘れてしまった」ということも多いでしょう。

1年に1回ぐらいしか夢をみない、というような人もいますが、みていないのではなく、ほとんどの場合、覚えていないだけです。(「はじめに」より)

ドイツの夢研究者であるシュレードルによれば、客観的評価では、ポジティブな感情が優勢な夢をみる確率が21.1%、ネガティブな感情が優勢な夢をみる確率は56.4%、感情を伴わない夢をみる確率が、13.5%、感情のバランスがとれた夢をみる確率は9.0%なのだそうです。

ネガティブな感情の夢が多いことは共通しているようですが、とはいえ夢はいつも同じではなく、忘れ去ってしまった夢、楽しい夢、焦る夢、飛び起きるような夢、ストレスによる悪夢まで、その階層はさまざま。

また心の健康の度合いのみならず、年代による差や成長に伴う変化など、生涯発達やパーソナリティ(性格の差)なども反映されるもの。だから、知れば知るほどおもしろいというわけです。

それにしても、私たちはなぜ夢をみるのでしょうか?

夢が形成されるメカニズム

夢の形成過程を説明するモデルのなかでいちばん支持されているのは、睡眠学者のアラン・ホブソンとロバート・マッカーリーが提唱した「活性化―合成仮説」なのだそうです。

これは「レム睡眠中に脳幹の“橋(きょう)”から信号が発生し、感覚や感情、記憶の回路が活性化されることで夢の素材が生じる。それに対して、覚醒時よりもまとめあげる機能が弱くなったレム睡眠中の前頭前野が、不十分ながらも夢の素材をなんとかまとめあげようとしている」と考えるものです。ホブソンは、「夢は睡眠中に自己活性化した脳の働きによるものである」と表現しています。(53〜54ページより)

記憶に残っている夢のことを思い返してみれば、なんとなく納得できる気もします。

いずれにしてもこの仮説によれば、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えも脳内の化学伝達によってなされているよう。「アセチルコリン(筆者注:睡眠に深く関わる、神経刺激を伝える神経伝達物質)」がレムをオン、ノンレムをオフにし、「セロトニン(精神を安定させる、脳内の神経伝達物質)」と「ノルエピネフリン(交感神経の情報伝達に関わる神経伝達物質)」がノンレムをオン、レムをオフにするというのです。

いいかえれば、人間と動物のレム睡眠に“橋”は必須だということ。ところがその後、神経科学者マーク・ソームズが、「橋を損傷していても夢をみる患者がいることから、夢とレム睡眠は同義ではない」と指摘してもいるのだとか。(53ページより)

夢をみやすいのはどんなとき?

レム睡眠期とノンレム睡眠期に眠っている人を起こすと、だいたい80:20の夢想起率となるのが平均的。つまり、レム睡眠期にある人の8割が夢をみているということです。ただしノンレム睡眠時にも夢をみないわけではなく、レム睡眠時のように生々しいドラマのような夢ではないものの、「頭をよぎるイメージ」や「断片的思考」のようなかたちで夢をみているようです。

ノンレム睡眠の場合、夢は寝入りばなにみることが多く、そのあと何度かの睡眠のサイクルが訪れるため、あまり覚えていないわけです。なおレム睡眠は明け方にかけ、睡眠のサイクルを重ねると長くなるそう。そのため、起きる直前の夢は長く、起きたときに覚えていやすいわけです。

また、レム睡眠時の夢には朝の覚醒時に記憶を定着させる効果があります。ですので夢を覚えておきたいときは、「睡眠時間をある程度長くとること」「二度寝をすること(明晰夢を見たいときにも利用されている)」がポイントです。(55ページより)

ちなみにレム睡眠時の夢にはストーリー性があり、ときには2時間ドラマのように感じることも。夢をみていると、主観的に感じる時間のほうが実際のレム睡眠の継続時間より長いことがわかっているそうです。(54ページより)

なぜ夢が出てくるのか、夢の役割はあるのか

著者はここで、睡眠中の記憶情報の処理に関する仮説を紹介しています。

・「記憶の不要情報消去仮説」(クリック&ミッチソン)

日中に取り込まれた膨大な情報のうち、不要なものを消去することで、脳のハードディスクをきれいに保ち、日中の動作に不具合が起こらないようにする

・「記憶の再処理(固定)仮説」(ウィンソン)

日中に取り込まれた膨大な情報のうち、必要なものをきちんと整理して保存することで、過去の情報を更新し、将来必要な情報の貯蔵を利用可能にする。(56〜57ページより)

正反対にも思える仮説ながら、同時にこれらの作業が実行されているのではないかと著者は推測しているようです。

なお夢の役割については、フランス・リヨン大学のミッシェル・ジュヴェによる「シミュレーション仮説」があるといいます。これは「将来に必要な対処行動を夢のなかでシミュレーションしている」というもの。

また著者も、夢に関するさまざまな研究の作業工程をまとめています。

1. レム睡眠中に体が動かないなかで、安全な状況下での危機対応のシミュレーションをする

夢には進化的価値があり、夢のテーマにも危機的状況が多く含まれる。人は集団で生きる動物なので、人との協働と競争のなかで体験することが夢にも出てくる。

たとえば、「間に合わない(信頼をなくす)夢」「恥(人からどう見られるか)の夢」「何度もトライする(成功、達成を求める)夢」「襲う(勝利する)/襲われる夢(負けそうになる)」などは典型的なテーマ。

2. 辛い記憶の緩和

夢にみることで、エクスポージャー法(感情を段階的に曝して退治することで不安を緩和する行動療法の一種)によりネガティブな感情を和らげる。適正な処理が、よき目覚め、日中の社会適応レベルを高める。

3. 創造的な問題解決

覚醒時には思いつかなかった、情報の緩やかな結合により、新しいものが生まれる。(58〜59ページより)

著者自身は、夢は「感情を整え、苦しい体験を克服し、新しく記憶を形成、修正するためのセルフモニタリングのツールではないか」と考えているそうです。(56ページより)

睡眠中、または夢をみている最中には、生きるために重要な作業が行われており、夢はその一部を私たちに教えてくれるのだと著者は述べています。

したがって、睡眠と覚醒のメリハリをつけ、睡眠をたっぷりとって自分のみる夢に注目することは、自分らしく生きるうえで有用なのだと。だからこそ夢の仕組みを理解すれば、よりよい人生を送るためのヒントを見つけ出せるかもしれません。

Source: ワニブックスPLUS新書

メディアジーン lifehacker
2023年4月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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