マキャベリ『君主論』に学ぶリーダーシップ。変化の多い時代に持つべき信念とは

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

すらすら読める新訳 君主論

『すらすら読める新訳 君主論』

著者
マキャベリ [著]/関根光宏 [訳]
出版社
サンマーク出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784763140470
発売日
2023/03/22
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

マキャベリ『君主論』に学ぶリーダーシップ。変化の多い時代に持つべき信念とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ニコロ・マキャベリはイタリアのルネサンス期の政治思想家であり、フィレンツェ共和国政府の官吏として活躍した人物。そして、彼が1513年ごろに執筆したのが『君主論』。人間心理を鋭く読み解き、上に立つ者のあるべき姿を説く名著として、世界中で長く読み継がれています。

タイトルからもわかるように、『すらすら読める新訳 君主論』(マキャベリ 著、関根光宏 著、サンマーク出版)はそんな『君主論』を「わかりやすさ」にこだわって全訳したもの。自分を磨くために、あるいは人を動かすために必要なことがらが記された普遍的な書物のエッセンスを、無理なくスムーズに身につけることができるわけです。

しかし、そもそもはルネサンスの君主のあり方について論じられたもの。そんな同書を私たちはいま、どう読むことができるのでしょうか? このことについて訳者は、次のように述べています。

現代社会に置き換えれば、リーダーたるものは何をどう考え行動すべきなのか、というのが本書のメインテーマです。ですが『君主論』は、リーダーに必要な統治術が書かれているだけではありません。

リーダーがいるということは部下がいます。リーダー的立場にあるわけではない人にとっても、人間関係の構築法や交渉術など、この本には日々の生活に生かせるノウハウがたくさん盛り込まれています。(「訳者まえがき」より)

いいかえれば地位やキャリアに関係なく、さまざまなビジネスパーソンに役立つ内容となっているわけです。そんな本書のなかから、「『嫌われる』『侮られる』はどうすれば防げるか」というトピックに焦点を当ててみたいと思います。

「嫌われる」「侮られる」はどうすれば防げるか

【原題】憎まれたり軽蔑されたりするのをどう避けるべきか(155ページより)

君主たるもの、憎まれたり軽蔑されたりするのを避けなければならない。そのことさえ防げれば、君主の役割を果たすことができ、それ以外の悪評を受けたとしても危険に陥ることはない。マキャベリはこう述べています。

君主が軽蔑されるのは、移り気で、軽薄で、軟弱で、臆病で、優柔不断とみなされたときだ。君主はこのことを、暗礁に対するように警戒しなくてはならず、その行動のなかに偉大さや勇敢さ、威厳や決断力がうかがえるように努力しなくてはならない。

次に、臣民一人ひとりの扱いについては、君主の裁定は撤回不可能であるとわからせ、誰も君主をだましたり欺いたりしなくなるような評判を維持しなければならない。

こうした評判を得た君主だけが大きな名声を獲得できる。(156ページより)

上に立つ人間に求められるべき者は、いつの時代も変わらないようです。(155ページより)

君主が対峙する2つの脅威

なお通常、君主には2つの脅威があるといいます。

一つは内側から、つまり臣下による脅威であり、もう一つは外側から、つまり国外の列強による脅威である。

後者については、すぐれた軍隊と頼りになる同盟軍さえあれば防ぐことができる。そして、よい軍備があればよい味方がついてくるものである。

そのうえ、対外的な関係が安定していれば、陰謀による混乱が起こらないかぎり、国内も安定する。たとえ外部の情勢が不安定であったとしても、君主が尊敬されて、やる気さえ失わなければ、スパルタのナビス[スパルタの最後の王]の場合のように、どんな攻撃にも耐えていけるだろう。(157ページより)

君主が憎悪されたり軽蔑されたりするのを避け、君主の政治に満足していれば、民衆は安心していられるわけです。したがって、このことはぜひとも実践すべきだといいます。(157ページより)

大多数の人から憎まれないこと

ところで立場上、君主は陰謀に対峙する必要があります。このことに関連してマキャベリは、陰謀に対して君主がなすべきもっとも有効な対応策は、大多数の人から憎まれないことだと述べています。

というのも、反乱を起こす者は君主を殺せば民衆が満足すると思いこんでいるが、君主を殺すと民衆を怒らせることになるとわかれば、その決断はくじけてしまうからだ。

これまでじつにたくさんの陰謀が企まれてきたが、成功した例はとても少ない。それというのも、陰謀を企むことは一人ではできず、かといって、仲間に引き入れられるのは不満を抱いている者にかぎられるからだ。(158ページより)

反乱を企む者は、つねに不安や猜疑心を抱いてびくびくしているもの。しかし君主には、威光や法律、守ってくれる味方や権力者が存在します。そればかりか民衆の信頼に支えられているとなれば、陰謀を企むような無謀なまねをする人もいなくなることでしょう。(158ページより)

秩序をもったリーダーの条件

したがって、君主は民衆から好感を持たれている間は、反乱などあまり気にする必要がないという結論が導かれるのだとマキャベリはいうのです。

ただし、民衆が君主に敵意を抱き、憎悪を感じるようになったら、そのとき君主はどんなことも、どんな人物をも恐れなければならないとも。

きちんと秩序をもった国や賢明な君主は、貴族を絶望させず、民衆を満足させ、民衆が安心して暮らせるよう腐心してきた。なぜなら、それこそが君主の心がけのなかでもっとも重要なことだからだ。(160ページより)

時代が時代だけに「陰謀」「殺す」など恐ろしい表現も出てきますが、それはともかく、こうした考え方はビジネスシーンにおけるリーダーシップの活用法にも応用できるはずです。(160ページより)

私たちを取り巻く環境はきわめて複雑であり、冷酷な現実さえ容易に目につきます。しかし本書を読めば、そんな現代社会で自分の身を守りながら生きていくためのヒントが見つかるはずだと訳者は記しています。激動の時代を生き抜くためにも、参考にしてみてはいかがでしょうか?

Source: サンマーク出版

メディアジーン lifehacker
2023年4月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク