<書評>『原爆写真を追う 東方社カメラマン林重男とヒロシマ・ナガサキ』林重男、井上祐子 著

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原爆写真を追う

『原爆写真を追う』

著者
林 重男 [著]/井上 祐子 [著]
出版社
図書出版みぎわ
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784911029015
発売日
2023/04/12
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『原爆写真を追う 東方社カメラマン林重男とヒロシマ・ナガサキ』林重男、井上祐子 著

[レビュアー] 大石芳野(写真家)

◆生々しさから膨らむ想像

 この一冊に込められたメッセージは実に深く、かつ広い。写真だけではなく記録ノートにも重みがあるからだ。二発の原爆がアメリカ軍によって投下されて七十八年になるが著者の記録は生々しく、臨場感をもって迫ってくるから読者は想像力を膨らませることができる。

 林重男は東方社のカメラマンとして原爆投下から間を置かずに現場に赴き、惨憺(さんたん)たる状況を撮影して回った。いかに破壊されたかを一目で伝えるには360度を見渡せるパノラマ写真が最適だと考え、出来上がった写真を繫(つな)ぎ合わせることを綿密に計算しながら撮影した。抜群の結果だった。全壊した街は実にリアルだ。加えて無残な個々の建物や木々などからも原爆の威力が分かる。さらに瓦礫(がれき)の隙間から生え始めた草花にレンズを向けて「七五年間は植物の生育不能」は実情と違うことを示した。

 荼毘(だび)の跡や無数の遺骨を目にしながらの苦悩に満ちた撮影だったが、連合国軍総司令部(GHQ)に原爆地の撮影を禁止され、写真を没収された。だが、ネガは決して渡さなかった。プロ写真家の心意気と信念が伝わってくる。

 日照計の記録紙の「1945年8月6日」を撮影しながら「太陽の光は、きのこ雲、猛烈な火災で立ち込める煙、『黒い雨』によって三度遮られた」とあり、この「写真を取り出して見るたびに、私の核兵器を憎む感情はつよくなります」という思いが戦後も続き、仲間を誘って「反核・写真運動」を立ち上げて若い世代にも共感を広げていった。

 社員であった林重男は陸軍の要請に応じて日本軍が進軍した外地へ赴き、国内では富士山を背景に飛行する軍の飛行機なども撮影した。戦時中フィルムは十分に入手できたが、戦後、軍に協力したことを彼は悔いた。原爆写真を撮っていなかったら軍事協力写真家として林重男の名は残ったかもしれない。

 本書の後半を占める井上祐子の綿密な調査や研究が原爆写真の信頼性を裏付けているばかりか、林らの写真の価値を高めた貴重な存在として井上の名も読者の記憶に残る。

(図書出版みぎわ・2860円)

林は1918〜2002年。井上は政治経済研究所主任研究員。

◆もう1冊

『原爆の惨禍 名著で読む 広島・長崎の記憶』蜂谷道彦、原民喜、林京子ほか著(原書房)

中日新聞 東京新聞
2023年5月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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