Z世代より、お金を持った子どもを狙え。「ソロ社会マーケティング」時代の勝ち筋とは

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知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質

『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』

著者
荒川和久 [著]
出版社
ぱる出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784827213904
発売日
2023/03/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

Z世代より、お金を持った子どもを狙え。「ソロ社会マーケティング」時代の勝ち筋とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(荒川和久 著、ぱる出版)の著者は、本書の冒頭で重要な指摘をしています。それは、マーケティングを語るにあたって社会構造の変化がないがしろにされてきたという事実。

社会の構造が激変したなか、いつまでも性別や年齢、世代で消費者をとらえているのは時代遅れだということです。

いうまでもなくソロ(単身者)と家族とでは、その消費行動はまったく別物です。また、そういう前提に立てば、市場全体を昭和の時代とは違う視点および視座でとらえることが必要になってくるわけです。

加えて、人々が生活する土台としての環境の変化にも目を向けるべきでもあるといいます。なにしろインターネットの普及に伴って情報量が増大し、新聞やテレビなどのマスメディアだけではなく、スマホが各人の「掌メディア」となっている状況です。そうした情報過多の時代に人間が適応するためには、「感情」の力が重要になるというのです。

統計学に基づく重回帰分析はできても、ひとりひとりの人間の「感情」の動きというものに関心を持っているだろうか。望むと望まないとにかかわらず社会は個人化する。個人化する社会とともに、消費もまた「群から個へ」と移行する。かつてマイノリティだったソロが5割にまで拡大する中で、従来の家族論法だけでは通じないことがある。家族のため、子どものために一生懸命がんばれば幸福を感じられた層とは違うのだ。

あらゆるものがデジタル化され、可視化されたように思いがちだが、そこにこそ罠がある。見えるものだけを見ようとしていないだろうか。(「はじめに」より)

だからこそ、事例やハウツー、テクニックなど小手先の知識を習得する前に、自分の本質と向き合うべきだということ。そして個々人が変化する環境や構造を正確に理解したうえで、自分自身に「問い」を立てる必要があるーー。

著者はそう主張するのです。

こうした考え方の本質をさらに理解するために、きょうは第2章「消費構造が変わる」に焦点を当ててみたいと思います。

世代論だけではマーケティングできない

マーケティングの世界では長きにわたり、世代論が重視されてきました。「団塊世代」「新人類世代」「バブル世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」など、生まれた年代の社会背景に準じた共通の価値観から、その消費傾向をとらえようというもの。

そうした考え方は未だ健在ですが、それはいかがなものかと著者は疑問を投げかけています。

たしかに過去には、同じ年代に生まれ、学校を出て、就職し、結婚し、そして親になるという「人生すごろく」が共通の流れとして存在していました。しかし、そんな時代にはよかったのかもしれませんが、いまや単身世代が増え、結婚せずに一生を終える生涯未婚者層は確実に増加しています。

そんななか、同じ年代に生まれたというだけで簡単にひとくくりにすることが不可能であることは誰の目にも明らかであるわけです。

なお、世代論のなかでしばしば話題になるのが「若者論」です。最近は「Z世代」ということばをよく聞きますが、そうやってレッテル貼りされている若者自身が、自らがZ世代であることを肯定する発言をするようになっていると著者は指摘しています。

身も蓋もない話をすれば、今までの世代論も若者論もすべておじさんたちが定義したものであって、Z世代に関しても例外ではない

「俺たちはおじさんたちとは違うんだ! おじさんたちには俺たちのことはわからない」と言いながら、おじさんたちが定義した枠内にきれいに収まることで、自己を見出そうとするのもまた、歴史上繰り返されてきた若者の姿でもある。

つまり、「大人の常識に収まらない自由な価値観を持っているのが若者」なのではなく、「大人の常識に収まるまで自由に動き回っていい囲いのある場所で遊ばされているのが若者」なのである。(36〜37ページより)

これはZ世代だけのことを指しているのではなく、“過去の若者”をも含めた若者全般についての考え方ということになるでしょう。(36ページより)

Z世代マーケティングのまやかし

ちなみにそんな著者は、「お前がどれだけ御託を並べようが、Z世代マーケティングは世界的に注目されている。そもそもお前、昭和すぎてZ世代がなんたるか知らないだけだろ」などと、誹謗中傷に近いことばをツイッター経由で受けたこともあるそう。しかし現実的には、宣伝会議の講座でZ世代について語ったりもしてきた専門家です。

そうしたバックグラウンドを持っているからこそ、「『Z世代は……』と訳知り顔で語るマーケターは、Z世代の本質などどうでもよく、「ゴールドラッシュの鉱山の前で『この場所から金が出そうですよ』と地図を売る山師と変わらない」と、真正面から反論するのです。

おじさん世代が世代論や若者論を自ら定義し、若者を巻き込もうとするのはある種仕方がない面もある。なぜなら、そもそもは自分たちの安心のために定義したいだけだから。

ソクラテスやエジプト文明の頃から、何千年も前から言われている「近頃の若者は…」という言葉が、世代論・若者論に他ならない。いつの時代も、企業で意思決定権を持つ管理職以上のおじさんたちが世代論に納得し、食いつくのはそういう理由である。

しかし、それは人類が始まって以来ずっと継承されてきた「若者像」をコピペしているに過ぎず、世代で分けるという考え方をしている以上、そこに新しい発見などない。(45ページより)

興味深いのは、このことに関連し、著者が40代以上で未婚のアイドルオタクなどを「金を持った子ども」であると指摘している点。彼らは大人買いもする層であり、つまりマーケティング的には若者よりも大きな市場ではないかというわけです。

20〜30代に限っても1387万人、40〜50代でも1122万人もいる。60歳以上の独身人口ももはや1574万人である。独身といっても、若い方と中年と高齢者とでは望まれる市場は違うので、一括りに独身市場とはいえないが、それでも今後需要の拡大が予想されるのは、「金を持っている子ども」といっていい40〜50代独身者たちである。彼らは少なくとも、18歳以上のZ世代より収入が多い分、消費も多い。(47ページより)

つまり客単価が高い人たちであり、冷静にファクトを紐解けば、少なくともビジネスにおいては、「これからはZ世代よりもソロを狙ったほうが正解」だということです。(42ページより)

環境が変化し(続け)ている以上、それに適応しなければ生き残っていけないのは当然のこと。しかも私たちはすでに、ソロ社会へと向かう道を歩き始めているのです。だからこそ試行錯誤していく必要があるわけですが、本書はそのためのよきサポート役となってくれそうです。

Source: ぱる出版

メディアジーン lifehacker
2023年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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