『准教授・高槻彰良の推察9 境界に立つもの』
- 著者
- 澤村 御影 [著]/鈴木 次郎 [イラスト]
- 出版社
- KADOKAWA
- ジャンル
- 文学/日本文学、小説・物語
- ISBN
- 9784041129517
- 発売日
- 2023/03/22
- 価格
- 748円(税込)
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民俗学×ミステリ×ホラー!“怖い”が大好き! 澤村御影×芦花公園 スペシャル対談
[文] カドブン
「准教授・高槻彰良の推察」(角川文庫)と「憧れの作家は人間じゃありませんでした」(角川文庫)、2つの人気シリーズを手がける澤村御影さんと、「佐々木事務所」シリーズ(角川ホラー文庫)が絶好調のホラー界の新星・芦花公園さん。ホラー大好き、怖いものが大好き!というお二人の対談をお届けします。
『ダ・ヴィンチ』6月号でも、お二人の対談を掲載。「岸辺露伴を読み解くW対談〈ホラー愛編〉」にて、ホラーの文脈で「岸辺露伴」シリーズの魅力を饒舌に語ります。こちらも読み逃せない!
取材・文=朝宮運河
■澤村御影×芦花公園 スペシャル対談
■最後の最後まで油断できない芦花公園ホラー
澤村御影さん(以下・澤村):今日はよろしくお願いします。こういう対談のお仕事はあんまりお引き受けしたくないんですが、芦花公園さんにお会いできるということで即「やります」とお返事しました。
芦花公園さん(以下・芦花):光栄です。こちらこそよろしくお願いします。
澤村:先日、芦花公園さんの『パライソのどん底』(幻冬舎)を読ませていただいたんですけど、何が怖かったって終盤、主人公二人がラブラブしているシーンが一番怖かったんです。
芦花:BL色が強いシーンですね。あそこのゲラをチェックしていたら編集さんか校正さんから「イチャイチャしてますね」という指摘が入っていて、どう受け止めていいのか戸惑いました(笑)。
澤村:一見何の心配事もなさそうな幸せな場面なのに、刻一刻と破滅が近づいているのがわかる。「これで終わるわけないじゃん、だって芦花公園の小説だよ!」と思いながら読んでいったら、案の定怖ろしいラストが待っていて、ほらやっぱり、と誰にともなくドヤ顔を(笑)。
芦花:最後の最後でダメ押しをしたくなるのは、海外のホラー映画の影響が大きいですね。
澤村:芦花公園さんの作品はデビュー当初から読ませてもらっていますが、どれも怖くて面白い。そして美形がほぼ毎回出てくる(笑)。「佐々木事務所」シリーズの新作『聖者の落角』(角川ホラー文庫)にも“彼”が出てきましたしね。
芦花:片山敏彦ですね。一般異常美貌男性。
澤村:読者の方がツイッターでそう呼んでいるのを見て笑っちゃいました。「グッドデザイン賞」と褒め称えている方もいて、芦花公園さんのファンは楽しい方が多いなあと。
芦花:片山敏彦は人気がありますね。ただ前に他の対談でもお話ししたんですが、あまりに美形ばかり書きすぎて、彼らを褒め称えるボキャブラリーが枯渇してきたんですよ。しばらくは美形を控えようと思っています。わたしの作品とは違って、「准教授・高槻彰良の推察」にはきちんとした大人がたくさん出てきますよね。澤村さんのお人柄の表れなんだと思います。
■解決できる怪異と、解決できない怪異
澤村:「高槻」シリーズはホラーではなくライト文芸ですから、そこまでひどい話は書かないようにしています。
芦花:わたしは「四人ミサキ」(『准教授・高槻彰良の推察 8 呪いの向こう側』所収)が好きなんです。ニヤニヤしているお父さんの存在がすごく不気味で。途中まではめちゃめちゃ怖いですね。
澤村:あの話は初稿ではもっと救いのない話で、読後感をよくするためにかなり改稿しました。あのお父さんは自分でも書いていて嫌いだったんですよね。「高槻」シリーズは途中までホラーの文脈で怖がってもらって、それを別の見方から解釈するとこうなりますよ、という作りなんです。これがホラーだったら不条理な、気持ちの悪い結末もありだと思うんですが、ジャンルが違いますからね。
芦花:ロジカルな作りですよね。どんなに得体の知れない現象が起こっても、高槻先生が出てきたらもう大丈夫、という安心感がある。わたしは逆に、一人残らず気持ち悪い思いをして帰ってほしい、という思いがあるんですよ。最悪の地下アイドルみたいな。
澤村:本当はわけのわからない怪異も書きたいんですけど。そこはミステリとして割り切っています。
芦花:でもロジカルな説明からこぼれ落ちる部分が、いつもありますよね。
澤村:そこは作るようにしています。「押し入れに棲むモノ」(『准教授・高槻彰良の推察 8 呪いの向こう側』所収)に出てくるモンモンって何なんだ、とかね。
芦花:何なんでしょうね、モンモン。わたしは猿のようなお化けをイメージしましたけど。
澤村:そうですか。あれは読んだ方によって思い浮かべる姿が全然違うんですよね。怪異を描くうえで、いつも意識していることはありますか。
芦花:わたしが扱う怪異は、必ず元ネタがあるんですよ。海外の神話や宗教であることが多いんですが、それを日本風にアレンジして、土着的な信仰に混ぜ合わせるということはよくやります。『パライソのどん底』も『漆黒の慕情』もそういう作りですね。それと「佐々木事務所」シリーズは解決できる怪異を扱い、それ以外では解決できない怪異を扱うというルールを設けています。
■一度は幽霊を見てみたい
澤村:映画の影響があるとおっしゃいましたが、ホラー映画はどんなものがお好きですか。
芦花:基本何でも見ます。最近はアジア系のホラーに面白いものが多いですね。韓国とか台湾とか。ホラー映画に望むのは、主人公はできるだけ冷静で賢くあってほしいということ。殺人鬼に追われているのにわざわざ二階に逃げるとか、泣きわめいてばかりで対処しようとしないとか(笑)。残念ながら日本のホラーにはまだその手の主人公が多いんですよ。その点、ジョー・ヒル原作の『ブラック・フォン』は主人公が冷静沈着ですごくよかったです。
澤村:わかります。その方がきびきびとストーリーが展開するし、恐怖も一層引き立ちますよね。わたしが好きなのは『サプライズ』という作品。ホラー版『ホーム・アローン』と言われるだけあって、侵入者との攻防戦がスリリングなんですよ。
芦花:ホラー小説もホラー映画も大好きなんですが、実体験をしたいとは絶対思わないんです。怖い目には死ぬまで遭いたくない。
澤村:わたしは結構見たい側ですよ。学生の頃はオカルト好きの友だちと心霊スポットに出かけたこともあります。今は猫を飼っているので行きませんけどね。変なものを連れ帰って、猫に何かあったらいけないので(笑)。でも優しい幽霊だったら、一度くらい見てみたいなと思います。
芦花:こちらの世界に出てくる時点で、自己顕示欲が強い、ヤバい霊なんじゃないですか。
澤村:大学時代の先輩で、ナチュラルに幽霊が見える人がいるんです。その先輩の叔父さんが亡くなって、葬儀で棺を担ぐ役をするために家を訪ねたら、玄関先で男性が煙草を吸っていた。家に入ってご遺体の顔を見たところ、さっき煙草を吸っていた男性だった、という話を聞きました。こういう見方ならいいかなあと思います。
芦花:そういうしみじみした幽霊ならいいですね。郷内心瞳先生の「拝み屋」シリーズ(角川ホラー文庫)みたいな悪霊には、一生遭遇したくないですけど。
澤村:郷内先生のホラーは本当に怖いですもんね。じゃあ芦花公園さんご自身は心霊体験はゼロですか?
■増えたり減ったりする教科書の怪異
芦花:ほぼゼロですが、本棚の法医学の教科書が、いつの間にか増えたり減ったりする、というごく地味な怪異は現在進行形で起こっています。
澤村:え、どういうことですか? 同じ本が増えている?
芦花:はい。法医学の教科書が自宅にあるんですが、その同じ版が気づけば増えているんです。元は1冊だったんですけど、最大4冊まで増えました。家族に聞いても心当たりはないというし、これだけは本当に意味がわからない。
澤村:不思議ですね。処分したらどうなるんですか。
芦花:増えた1冊をツイッターのフォロワーさんにあげたことがあるんですが、いつの間にかまた補充されていました。目を離すと減っていることもあって、4冊から1、2冊になっていたりもします。北欧神話にドラウプニルという増える黄金の腕輪が出てきますが、あれを思い出すんですよね。黄金が増えるなら嬉しいんですが(笑)。
澤村:大本の1冊を処分したらどうなるんでしょうね。0から1冊になるのか。検証してみましょうよ。
芦花:さすが高槻先生の生みの親ですね。わたしは増えたら増えたでいいや、くらいの気持ちでいました。
澤村:そう思えるのもすごいですよ(笑)。今度増えたら1冊もらっていいですか?
芦花:ぜひもらってやってください。澤村先生のところに行けたら、本も喜びます。
■プロフィール
■澤村御影(さわむら・みかげ)
神奈川県横浜市出身、在住。2016年に『憧れの作家は人間じゃありませんでした』で第2回角川文庫キャラクター小説大賞 《大賞》を満場一致で受賞し、デビュー。同作はシリーズ化され全4巻で完結。他の著作に「准教授・高槻彰良の推察」シリーズがある。キャラクター文芸界注目の作家。
■芦花公園(ろかこうえん)
東京都生まれ。2020年、カクヨムにて発表した中編「ほねがらみ─某所怪談レポート─」がTwitterで話題となり、書籍化決定。21年、同書を改題した「ほねがらみ」でデビュー。古今東西のホラー映画・ホラー小説を偏愛する。著書に『異端の祝祭』『漆黒の慕情』『聖者の落角』『とらすの子』『パライソのどん底』、共著に『超怖い物件』がある。