『小説で読みとく古代史 神武東遷、大悪の王、最後の女帝まで』周防柳著(NHK出版新書)

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小説で読みとく古代史

『小説で読みとく古代史』

著者
周防 柳 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784140886977
発売日
2023/03/10
価格
1,023円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『小説で読みとく古代史 神武東遷、大悪の王、最後の女帝まで』周防柳著(NHK出版新書)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

作家が迫った歴史の謎

今月、佐賀の吉野ヶ里遺跡で、弥生時代後期のものの可能性がある石棺墓(せっかんぼ)の調査が行われた。すわ卑弥呼の墓かと、各局のニュース番組がこの話題でにぎわった。

事ほど左様に、私たちは古代史が好きだ。ただ、(歴史家の皆さんには申し訳ありませんが)大多数の私たちは、古代史を勉強したいわけではない(と思う)。古代史に秘められたロマン、謎多きドラマを愛している。物語性たっぷりの古代史は、これまで多くの小説家の創作熱をかき立てて、優れた作品の題材となってきた。それらを愛読する読者ももちろん、「小説だから、史実とは違っているところがある」「このストーリーに史実の裏付けはない」と謹厳に弁(わきま)えつつ、お話の面白さを享受してきた。

「小説のお話は、その作中だけのこと」

線引きする姿勢は確かに正しい。だが、ちょっと堅苦しすぎはしないか。たまには史実第一主義から離れ、「創作物=小説のなかの仮説やストーリー」の方をメインにして古代史の謎をぐるりと眺め直してみたら、これまでにない景色が見えてくるのではないか。周防柳さんの発想の転換は、まさにコロンブスの卵だった。おかげで本書は楽しく刺激的な一冊になり、ページを繰る私たちに、謎を封じていた石棺と同じくらいのドキドキわくわくを届けてくれる。セレクトされている小説は新旧を問わず、歴史の問題を強く意識している中編以上のもの(コミックも有りです)。全六章、まずはタイムリーな第一章が邪馬台国で、帚木蓬生作『日御子』、内田康夫作『箸墓幻想』など。第二章のお題は記紀神話で梅原猛作『オオクニヌシ』に黒岩重吾作『白鳥の王子 ヤマトタケル』に諸星大二郎作『暗黒神話』。「応神天皇はどこから来たか」を推考する第三章には池澤夏樹作『ワカタケル』――と、ビッグネームが続々登場する一方、驚きの掘り出し物もある。巻末に付された古代史小説ライブラリーも便利です。

読売新聞
2023年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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