『「紙1枚!」マネジメント』
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部下を伸ばす「支配」から「支援」に変わるマネジメント術〜彼らがリーダーに求めていることは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『あなたの「言語化」で部下が自ら動き出す 「紙1枚!」マネジメント』(浅田すぐる 著、朝日新聞出版)の著者は、トヨタ自動車の海外部門を経てグロービスに転職し、2012年に独立して以降は社会人教育のプロフェッショナルとして企業研修や講演などを行っているという人物。
本書は、そうした経験のなかで多くのビジネスパーソンと対話をしながら練り上げていった知見をもとに、部下を持つマネジャー・管理職・リーダーのために書かれたもの。端的にいえば、「現在進行形でマネジャーとして奮闘しているビジネスパーソンのリアルな悩みに応える本」であり、そのエッセンスをひとことにまとめるなら、「部下は、あなたに『言語化』を求めている」ということになるのだとか。
さらに噛み砕くと、以下のようになるようです。
・会社の理念や方針・目的等を、自分なりに「言語化」する
・部下の話を聴き、一緒に、あるいは代わりに言いたいことを「言語化」する
・部下自身が、主体的に「言語化」して行動していけるように支援する
(「はじめに」より)
こうした考え方に基づく本書の最終ゴールは、日々のマネジメント、より具体的には「部下のマネジメント」に役立ててもらうこと。そのためには部下にもわかることばで最初から学んでいく必要があるため、一般的にイメージしやすい「言語化」という表記を用いているわけです。
しかも、問題解決の本質である「言語化」を実現するためにすべきは、「紙1枚」書くだけ。それで充分に、日々のマネジメント業務に活かせるというのです。
きょうは第1章「なぜ『紙1枚』はマネジャーの悩みに効くのか?」に焦点を当て、「紙1枚」のまとめ方を身につける前に確認しておくべきだという基本的な考え方を確認してみたいと思います。
ノウ・ハウの実践には「ノウ・ワイ」の理解が不可欠
「紙1枚」のまとめ方の話をする前に前提や背景の説明をするのは、ノウ・ハウ(Know-How)の実践にはノウ・ワイ(Know-Why)が不可欠だから。
「そもそもどうしてこう書くのか? まとめるのか?=Why」に関する深い理解がないと、自分の仕事に「どうやって当てはめたら良いのか?=How」について、自分なりに考えたり判断したりすることができなくなってしまいます。
表面的なやり方だけをファストなノリで摂取した結果、「自分の仕事に当てはめられない、使えない」といった感想にあっさり陥ってしまうことがないよう、まずはしっかり「Why?」を知ってほしいのです。(34ページより)
ファスト学習全盛の時代だからこそ、ノウ・ハウだけでなくノウ・ワイにも着目するべきだという発想。では、著者のいうノウ・ワイとはなんなのでしょうか? 具体的にそれは、次の3つの「部下のマネジメント観」なのだそうです。
本書を貫く3つの「部下のマネジメント観」
① 部下は、「変えられない」
② 部下は、「集団になると“2・6・2”に分かれる」
③ 部下は、「意志より環境で成長していく」
(35〜36ページより)
この3つのなかから、そもそもの大前提であるともいえる「部下は変えられない」という考え方に焦点を当ててみましょう。
多くのマネジャー職の方は、「部下をなんとかしたい」「部下に成長してほしい」と願っているだけに、そうした期待を部下にかけるもの。しかし、だからといって「ああしろこうしろ」と細かく伝えたところで、必ずしも部下が変わってくれるわけではありません。
むしろ、口うるさく叱責すればするほど、部下からは抵抗される可能性があるともいえるでしょう。その最大の要因は、「人は変えられる」という前提で部下と接しているから。だからこそ、以下の投げかけと対峙し、自身の心構えを点検してみるべきなのだと著者は主張しています。
今あなたが抱えている悩みは、「人は変えられる」という前提で出発しているからこそ、袋小路に入り、部下も自分も苦しくなってしまっているのではないか。(37ページより)
まずは、こう意識することがスタートラインだということです。(34ページより)
「支配のマネジメント」から「支援のマネジメント」へ
著者はここで、『現代の経営[上](ドラッカー名著集2)』(ダイヤモンド社)のなかから、以下のことばを引用しています。
目標管理の最大の利点は、支配によるマネジメントを
自己管理によるマネジメントに代えることである。(41ページより)
とくにフォーカスを当てたいのは、「支配」ということばだそう。部下を自分の思いどおりに「変えてやろう」という考えを前提としたマネジメントは、最終的には「支配」のマネジメントに行き着いてしまうもの。
しかしそうではなく、部下自身の「自己管理」によるマネジメントをこそベースにすべきだということです。
部下は変えられないもの。なぜなら「支配のマネジメント」には部下の自由や自主性・主体性はないから。そこで、部下が自ら変わっていくようにマネジメントしていく必要があるわけです。
なぜなら、人は変えられませんが、「自分自身なら」変えられるからです。(42ページより)
したがって、マネジャーにできるのは、部下が自ら代わり、成長していくきっかけをつくり出していくこと。つまり重要なのは、「支配」ではなく「支援」のマネジメント。マネジャーとして動くにあたっては、まずはそのことを心得ておくべきだということです。(40ページより)
部下のマネジメントは、上司にとって避けることのできない問題。だからこそ、「どうするべきか」について悩んでいるのであれば、本書を参考にしてみるべきかもしれません。活かせるノウハウは、きっと見つかるのではないかと思います。
Source: 朝日新聞出版