生きるための仕事から、やりがい重視へ。働きたくなる「企業カルチャー」はどうやって生まれるのか?

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

企業文化をデザインする

『企業文化をデザインする』

著者
冨田 憲二 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784534060204
発売日
2023/06/01
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

生きるための仕事から、やりがい重視へ。働きたくなる「企業カルチャー」はどうやって生まれるのか?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

物質的な豊かさを充分に得られるようになった現代では、数十年前と比較すると「働く意義」が変化してきているーー。

企業文化をデザインする』(冨田憲二 著、日本実業出版社)の著者はそう指摘しています。

「生きるために働く」ことが当然だった時代から、「働く意義とはなにか」が問われる時代になったということ。“モーレツ”に働くことが当たり前だった旧世代と違い、会社選びや働き方に対しての価値観が多様化してきているのがミレニアル世代やZ世代。つまり、そんな時代や世代に選ばれ、そんな人たちがやる気を持って働き続けられる環境を実現すべきなのです。

では、そのためにはどうすればいいのでしょうか?

まさに今問われているのは、企業そのものの「生き方」であり「生きがい」です。その姿勢や行動に対する「共感」がトリガーとなり、自分の「生きがい」に照らし合わせて会社を選び、楽しく働く時代なのです。

そして、この企業の「生き方」や滲み出る「生きがい」こそが「企業文化」です。(「はじめに」より)

強い企業文化こそ、これからも多くの人を惹きつけ、湧き出る組織エネルギーの源泉になるというのです。そこで本書では、決して目に見えず、定量的に測ることもできないけれど重要な「企業文化」の意味や意義を確認し、多くの事例とともに「デザイン対象物」へと昇華させようとしているわけです。

ちなみにここでいう「デザイン」とは、複雑な物事を可能な限りシンプルにするフィルターであり、絡み合ったトレードオフのバランスをとって着地させる技。さらには、思考や技術を極めて人間的な営みに馴染ませるための知恵をも意味するのだとか。

だとすれば、「企業文化」が必要である理由を確認しておきたいところ。第1章「なぜ『企業カルチャー』は大切なのか?」のなかから、答えを探し出してみたいと思います。

つかみどころのない企業カルチャーとの対話

それぞれの社内に空気のように存在していて、2つとして同じものはない、その企業のDNAや血液のようなもの。「企業カルチャー」のことを、著者はそう説明しています。

しかし、それほど重要なものであるにもかかわらず、多くの人は企業カルチャーに正面から向き合うことは少ないもの。

それが「根本的になんなのか?」「なぜ大切なのか?」「どんな構造でどんな力学が働くのか?」「どのように組織内に浸透させればよいのか?」「どうやって維持していけばよいのか?」などについて、深く考えることがないのも事実だということです。

かく言う私も、そんな企業カルチャーという概念に初めて触れたのは就職活動時代です。会社には「組織風土」と呼ばれているものがあって、どうやら会社ごとに全然違うらしいーー実際、OB訪問で何人もの先輩に話を聞く機会がありましたが、研究室にこもりっぱなしの理系大学院生だった自分には、結局その「風土」というものがまったくイメージできませんでした。そして「風土」は、企業カルチャーの1つの構成要素であると知ったのは、社会人になってからでした。(30〜31ページより)

しかし前述したように、いまは企業カルチャーの重要性が高まっている時代です。そして企業経営のあり方がより複雑に、より曖昧に、より不安定になっているわけです。また、そんな状況においては「曖昧なものを曖昧なまま許容してデザインする力」こそが、企業経営での中長期な競争優位につながるはず。

そして、その「曖昧なもの」の代表こそが企業カルチャーだということです。

ところが企業カルチャーというものは、数字のように単純に足し引きしたり、割り切れるものではありません。まして信号のように、赤か青かさえはっきりしません。いわば企業カルチャーとは、無限に続く円周率のようなもの。もしくは、青とオレンジと紫の境目がはっきりしない、美しい夕焼けのようなものだと著者は表現しています。

100社あれば100通りのカルチャーが存在しているわけですが、当然のことながらそれらを一概に「よいか悪いか」で判断することはできません。したがって、自社をしっかり観察することが重要。

そして、「自分たちにとって本当に必要なカルチャーとはどんなものなのか?」「どうすればそれを力強く維持できるのか?」、すなわち「自分たちがどのように生きていきたいのか?」を常に問い続けることが求められるのです。

つまりカルチャーデザインとは、そんな自社の“ヒトや組織の内面とも永続的な対話”だということ。(30ページより)

企業カルチャーとはなにか?

しかし、そもそも「企業カルチャー」とはなんなのでしょうか? どう定義すればよいのでしょうか? そこが気になるところですし、考え方もいろいろでしょうが、本書ではカルチャーデザインを次のように定義しているのだそうです。

その企業が信じるもの、そして

それに基づき判断/行動することのすべて。(32ページより)

ヒトの行動は、それがどれほど些細なものであっても、あるいは、それだけ大胆なものであっても、次の2つに分けられるのだといいます。

1衝動的行動

2計画的行動

(33ページより)

もちろん企業におけるヒトの行動は、「各自が信じるもの」に基づいた「計画的行動」であるはず。つまり企業カルチャーとは、経営陣からマネジメント層、現場スタッフまでを含めた組織の全員が、「各自が信じるもの」に基づいて行った無数の判断/行動の集積だということ。

そして、そこで働く人たちの「信じるもの」は、会社のビジョンやミッション、または経営陣や上司、同僚などの言動から日々影響を受けているわけです。だからこそ、そこで働く人は、変化し続ける状況を見据える必要があるのでしょう。(32ページより)

「企業文化」は目に見えず、定量的に表すこともできないだけに、その生い立ちや成り立ちはきわめて複雑。しかも、常に変化するものでもあります。

そんな「企業文化」を自社にとって最良のものにし続けるということは、日々の観察を通じた「デザイン」の力でしかなし得ないと著者はいいます。そこでぜひとも本書を通じ、「企業文化をデザイン」することの意味と意義を理解したいものです。

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2023年6月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク