『発想の回路』
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発想力は体系化できる!アイデアが出ないときにまず試してみたい「5つのスイッチ」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
たとえば「コンテンツ企画」「商品企画」「事業企画」「広告企画」といった仕事があることからもわかるように、「企画」はさまざまな局面において求められる職能です。
にもかかわらず多くの人が「アイデアが思いつかない」「企画が通らない」と悩むのは、現実的に「企画」を教わる機会が少ないから。
『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』(中川 諒 著、ダイヤモンド社)の著者は、そう分析しています。企画という職能は、とても特殊な環境に置かれているのだとも。
それは企画が個人のセンスに左右される属人的なものであり、「体系的に教えられるものではない」と考えられているからだと思います。
わたし自身、10年以上企画というものに向き合ってきた中で気づいたことがあります。
それは、「アイデアや企画をつくるうえで、誰もが自分なりの『発想の回路』をもつ必要があり、その回路さえ自分の中にできればアイデアや企画は自然と生まれてくる」ということです。(「はじめに」より)
そして、それこそが本書のテーマ。アイデアや企画が属人的なものであったとしても、「発想するための回路」は体系化することが可能。そこでここでは、汎用的に使える回路を体系化しつつ、読者が自分自身にとってのオリジナルの回路をつくるところまでサポートしているのです。
具体的には、長らく広告業界に身を置いてきた著者が、「発想力」を発揮するために、なにをどうやってインプットし、アウトプットし、アイデアを出して、企画を立てているのかが明らかにされているわけです。
ところで著者は多くのクリエイティブな人たちと仕事をするなかで、「工夫」の大切さに気づいたのだそうです。
工夫をすることで、想像もできない未来に向かって進むことができるということ。そこで、きょうは2章「アイデアは工夫からはじまるーー工夫の4K――」内の「アイデアが出ないときに試す5つのスイッチ」に注目してみたいと思います。
スイッチ1 手で発想する
著者はリサーチを始める前にまず、考えを書き出すところからはじめるのだそうです。
対象の商品やブランドについて、“消費者として率直に感じていること”をA5のリングノートにどんどん書き進めていくというのです。
単に考えるだけでなく、紙に手で書き出す理由は、自分の考えが客観的に把握できるようになるから。紙に書き出して可視化すると、複数の思考を並行して走らせることができるわけです。
またアイデアが詰まった時には、ノートをペラペラと見返すことで、過去の自分の思考の足跡をたどることもできます。それは、過去の自分と行うブレインストーミング(アイデアを出し合うこと)のようなものだといいます。(83ページより)
スイッチ2 目で発想する
新しい商品やブランドを担当するとき、著者は必ず売り場も見に行くのだとか。どのような人が商品を手にとっているのか、店頭POPなどの販促物はどのようなものが置かれているのか、どのような接客が行われているのかを観察するわけです。
そしてその後は商品について、「どのような歴史があるものなのか」「どのような機能があるのか」「なにが競合にあたるのか」などを徹底的に調べていくのだそう。
新しい情報をインプットすることで、自分の頭のなかだけで発想していたときとは出発点が変わり、たどり着くアイデアも変わるからです。
アイデアを考えることに行き詰まったら、外に出てください。
外に出てたくさん観察してください。
わたしはアイデアを書き出すタイミングでは、人がたくさんいる場所でなるべく時間を過ごします。そして周囲の人たちを観察しながら、彼らがどのような生活を送っているのか、何を見て、何を買うのか、そして目の前のアイデアを彼らが見たときにどのようなリアクションをするのか想像します。
頭の中で想像するよりも、目の前にその人がいた方が想像しやすくなります。(86〜87ページより)
人々の生活を妄想する作業は、他人を自分に憑依するような感覚なのだといいます。(86ページより)
スイッチ3 耳で発想する
考える対象がすでに市場に出ている商品であるなら、使っている人を探してインタビューしてみることも大切。難しそうに感じられるかもしれませんが、すぐに誰か思いつかなければ、SNSで知人に呼びかけてみるのもひとつの手段。
何をキッカケにその商品を買ったのか、使ってみて気に入っているところはどこか、逆にどんな不満を抱えているのかを聞いていきます。そうすることで、商品に対する理解の解像度がぐんと上がるはずです。(88ページより)
その商品のことや、問題整理について知らない人をあえて選んで聞くことで、また違う出発点を手に入れることができるわけです。(87ページより)
スイッチ4 口で発想する
意外と試したことのない人が多いのが、口で発想するという方法です。
独り言でもいいので、誰かに説明するつもりで考えたことを話してみる。
そうすることで、テキストだけでは気づけなかった問題が明らかになります。(90ページより)
口にしてみることで、説明がスムーズにいいかない通電不良の箇所を見つけることができるということ。そこで、話を聞いてくれる人がいるなら、情報漏洩にならない範囲で口頭説明をしてみるといいようです。(90ページより)
スイッチ5 体で発想する
「知っていること」と「やったことがあること」には大きな差があるもの。そこで著者は、体で発想するべきだと主張しています。
情報が溢れるこの時代には、知っていることを増やすよりも、やったことがあることを増やす方がアイデアは間違いなく出やすくなるのです。(92ページより)
すなわち、やったことのないことを楽しみながら体験するメンタリティが、アイデアにつながっていくということです。(91ページより)
広告業界関係者のみならず、どのような業種に就いている方であっても、商品や事業開発などアイデアや企画が必要な人が実践できるように整理された一冊。そのため、「発想の回路」を身につけるうえで大きな力になってくれそうです。
Source: ダイヤモンド社