フィリピンパブ嬢との結婚生活明かす 34歳男性が新書刊行への想いを語る

エッセイ

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フィリピンパブ嬢の経済学

『フィリピンパブ嬢の経済学』

著者
中島 弘象 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784106110023
発売日
2023/06/19
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

外国人妻との生活で見えてくること

[レビュアー] 中島弘象(文筆家)


フィリピンパブ嬢との結婚生活には様々な苦労が……。著者の中島弘象さん

 フィリピンパブ嬢と出会い、交際に発展し、すったもんだの末にゴールインした34歳男性……初めての育児、就職と転職、自国の家族への送金、綱渡りの家計など、外国人妻とのリアルな日常とは?

 2023年に公開を予定している映画「フィリピンパブの社会学」の原作者で、会社員として勤務するかたわら、名古屋市のフィリピンパブを中心に取材・執筆等を行う中島弘象さんが、自身の結婚生活を明かした新書『フィリピンパブ嬢の経済学』を刊行した理由を語った。

中島弘象・評「外国人妻との生活で見えてくること」

 2015年10月、フィリピンパブで出会った、フィリピン人女性ミカと結婚した。

 交際当初、フィリピンパブ嬢との交際に周囲は大反対。ミカも奴隷扱いともいえる契約を暴力団関係者と結ばされ、低賃金に加え、日常生活も厳しく管理され、自由は全く無い状況での交際だった。

 様々な困難を乗り越えながら、結婚するまでの過程は前著『フィリピンパブ嬢の社会学』で詳しく書いたので、そちらを読んでいただきたい。

 無事に結婚した僕たちだが、安定した生活とは程遠かった。妻はフィリピンパブ嬢。夫である僕はたまにある日雇い現場仕事やアルバイトをするだけ。収入の殆どは妻に頼っていた。

 しかし、転機が訪れる。子供が産まれたのだ。僕たち夫婦は、ついに生活について向き合う時が来た。

 外国人であるミカは、日本で子供を産み、育てながらも、日本語の問題や支援制度への繋がり方、母国の家族との関係、送金などの問題に直面する。

 外国人が日本に暮らしているのが当たり前になった今、メディアやSNSで取り上げられる彼らの姿は「可哀想」や「たくましく生きる」「迷惑」といった側面ばかりが強調されがちだ。

 本書ではそんな「特別」な姿ではなく、外からの取材では見えてこない、外国人妻と一緒に日々生活しているからこそわかる「日常」の部分を書いた。

 フィリピン人妻ミカを傍で見ていると、外国人だから困ることもあれば、外国人だからこそ気づく日本の良さもある。

 衣食住など、生活する上で必要なものは日本人でも外国人でも同じだ。子育てや日々の生活の中で、同じように悩み、喜び、幸せを感じる。

 人生は計画通りにいかない。出稼ぎ目的で来日し、数年したら母国に帰ろうと考えていた外国人の多くも、日本で生活の基盤を築き、幸せに日本で生活を続けることを望むようになる。

 また、我が子のように日本人とフィリピン人の親を持つフィリピンハーフも既に多くいる。日本とフィリピンにルーツを持ち育った彼らに、幼少期からを振り返ってもらい、様々な話を聞いた。

 貧しい幼少期を過ごした人。日本国籍を持ちながらフィリピンで育ち、日本に「出稼ぎ」に来た人。両親がフィリピン人で本当は日本人になる要件を満たさなかったが「日本人」として産まれてきた人。自身の見た目や名前で苦しみながらも、前向きに生きる方法を見つけた人。

 フィリピンハーフとして生きてきた彼らの姿は、真剣に外国人との共生を考えなければならないということを、日本社会に突き付ける。

 僕たち家族のドタバタ劇を楽しんでもらいながら、日本に住む外国人の「日常」を知るきっかけとなってくれれば、これほど嬉しいことはない。

新潮社 波
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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