『一日署長』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
一日署長は一日にしてならず
[レビュアー] 大倉崇裕(作家)
タイトルを決めるのがとにかく苦手だ。書き終わるまでまったく思いつかない時もあるし、編集者さんを拝み倒して決めてもらったこともある。
『一日署長』は珍しく、まずタイトルが先にあった。しかし、タイトルを思いつくと中身を思いつかない。その後、同タイトルの小説やテレビドラマもあったりして、長らくほったらかしになっていた。
ある時、海外ドラマの情報サイトで「タイムマシーンにお願い」がリブートされるニュースを見た。「タイムマシーンにお願い」は一九八九年から五シーズンに亘(わた)って放送されたドラマで、ある装置によって過去へと飛ばされた天才物理学者の意識が、様々な人の意識と入れ替わり、過去をより良い方向へと変えていく物語だ。
現代人が過去の署長に憑依ひようい)し、未解決の事件を一日以内に解決するため奔走する―「一日署長」じゃないか!
ふと思いついたタイトルが名作ドラマにインスパイアされて、奇妙な連作短編集が突然変異的に誕生した。
各話のラストは、クリント・イーストウッドの実話映画化作品などで、登場人物たちのその後をエンドロールにのせて簡潔に語る手法に倣(なら)った。何ともいえない余韻と切なさを演出したかったのだが、上手(うま)くいったかどうかは判らない。
重要な役割を果たすパソコン「ポルタ」は、実際にかみさんが使っていたものだ。
真夜中、何もしていないのに青白い光を発しながら突然立ち上がり、私は何度も、肝を冷やした。昨年の引っ越しを機に処分してしまったが、やはりあのパソコンは何かがおかしかったと思う。
この作品は、私の好きな物、身近にあった物を集めて形にした。そのせいか、書いていて実に楽しかった。