奇想ミステリーの元となった名作たちと、身近に巻き起こった怪奇現象とは!?

エッセイ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

一日署長

『一日署長』

著者
大倉崇裕 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915339
発売日
2023/06/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

一日署長は一日にしてならず

[レビュアー] 大倉崇裕(作家)

 タイトルを決めるのがとにかく苦手だ。書き終わるまでまったく思いつかない時もあるし、編集者さんを拝み倒して決めてもらったこともある。

『一日署長』は珍しく、まずタイトルが先にあった。しかし、タイトルを思いつくと中身を思いつかない。その後、同タイトルの小説やテレビドラマもあったりして、長らくほったらかしになっていた。

 ある時、海外ドラマの情報サイトで「タイムマシーンにお願い」がリブートされるニュースを見た。「タイムマシーンにお願い」は一九八九年から五シーズンに亘(わた)って放送されたドラマで、ある装置によって過去へと飛ばされた天才物理学者の意識が、様々な人の意識と入れ替わり、過去をより良い方向へと変えていく物語だ。

 現代人が過去の署長に憑依ひようい)し、未解決の事件を一日以内に解決するため奔走する―「一日署長」じゃないか!

 ふと思いついたタイトルが名作ドラマにインスパイアされて、奇妙な連作短編集が突然変異的に誕生した。

 各話のラストは、クリント・イーストウッドの実話映画化作品などで、登場人物たちのその後をエンドロールにのせて簡潔に語る手法に倣(なら)った。何ともいえない余韻と切なさを演出したかったのだが、上手(うま)くいったかどうかは判らない。

 重要な役割を果たすパソコン「ポルタ」は、実際にかみさんが使っていたものだ。

 真夜中、何もしていないのに青白い光を発しながら突然立ち上がり、私は何度も、肝を冷やした。昨年の引っ越しを機に処分してしまったが、やはりあのパソコンは何かがおかしかったと思う。

 この作品は、私の好きな物、身近にあった物を集めて形にした。そのせいか、書いていて実に楽しかった。

光文社 小説宝石
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク