『アリアドネの声』
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舞台は巨大地震に襲われた地下都市 ドローンを駆使した救出劇&謎解き
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
タイタニック号の観光潜水艇の捜索は残念な結果に終わった。奇跡の救出とはならなかったが、のちにフィクションとして実現される可能性はあるのでは。本書は巨大地震に見舞われた架空の地下都市を舞台に、まさにそんな救出劇を描いたサスペンス・ミステリーだ。
俺、高木春生はドローンビジネスを手掛けるベンチャー企業で実技指導をしている。国交省が立ち上げた都市開発プロジェクト、障がい者支援都市『WANОKUNI』にも参加していたが、そのオープニングセレモニーの日、現場をM7・2の大地震が直撃。五層からなる地下都市にも大きな被害が発生する。
幸い行方不明の要救助者は一名のみ。だがその一人が問題だった。地元県知事の姪で、有名ユーチューバーでもある「見えない・聞こえない・話せない」の三重障害を抱えた「令和のヘレン・ケラー」、中川博美だったのだ。
緊急災害対策本部は春生の会社が開発した、災害救助活動に特化した最新型のドローン、アリアドネを使って彼女を捜し出し、シェルターまで誘導しようとするのだが……。
さて、見えない・聞こえない・話せない者をいかにして導いていくのか。通常なら閉じ込められた者の恐怖等が要救助者の視点を通じて描かれるだろうが、本書では一貫して導く側から救出劇が描き出されるところがミソ。数々の試練に襲われる博美の姿をドローンを通してしか認識出来ない救助者たちのいたたまれなさ。春生が幼時に、救えたはずの事故で兄を亡くしたトラウマを抱えているとなればなおさらだ。
果たして博美の救出は叶うのかというスリルだけではない。やがて彼女の行動からある疑惑が浮上し、後半はその謎解きも読みどころとなる。それは障がい者というテーマに直結するメッセージでもあるが、とまれ冒険小説のプロパー作品とはまた一味異なる趣向も楽しめるパニック・ミステリーの逸品としても、お奨め。