「恐竜は隕石の衝突で絶滅した」に異論。あるウイルス研究者のあらたな見解とは?

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なぜ私たちは存在するのか

『なぜ私たちは存在するのか』

著者
宮沢 孝幸 [著]
出版社
PHP研究所
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784569854182
発売日
2023/03/28
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「恐竜は隕石の衝突で絶滅した」に異論。あるウイルス研究者のあらたな見解とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

私たちは当然のように日々を生きているわけですが、そもそもこうして生きていること、そして生物が地球上に存在することははたして当たり前のことなのでしょうか? 宇宙にまで眼を向けると、それはどう解釈することができるのでしょうか?

京都大学医生物学研究所准教授である『なぜ私たちは存在するのか ウイルスがつなぐ生物の世界』(宮沢孝幸 著、PHP新書)の著者は、本書の冒頭でこのような疑問を投げかけています。

改めて考えてみると不思議なのです。なぜ宇宙に生命が存在しているのでしょうか?

宇宙には生命体がいなくてもよいはずです。生命が存在する必然性はあったのでしょうか。それとも、生命は偶発的に発生してしまったので、存在しているだけなのでしょうか。

私は偶然だとは思いません。宇宙の摂理として生物は必然的に生まれたのではないでしょうか。(「まえがき」より)

きわめて難しい問題であり、専門知識を持っていない限り理解しづらいことでもあるでしょう。だからこそ著者は本書において、長年にわたって行ってきたミクロのウイルス研究をもとに、自身が育んできた「生命観」を明らかにしているわけです。

きょうはそのなかから、第8章「なぜ小さな恐竜も絶滅したのか?」に焦点を当ててみたいと思います。

隕石の衝突で恐竜は絶滅したのか?

誰しも一度は、「恐竜はなぜ絶滅したのだろう?」という純粋な疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか? なおご存じのとおり、現在もっとも有力な説は「隕石衝突説」です。

約6550万年前、現在のメキシコのユカタン半島に大きな隕石が衝突。それによって大量のちりが大気中に漂うことになり、地表に届く太陽光が減るなどして環境が激変。恐竜は適応できず、やがて絶滅していったという説です。

この説は本当に正しいのでしょうか?(183ページより)

まずここで著者が焦点を当てているのは、「なぜ哺乳類が生き残り、恐竜が絶滅したのか」という問題。そのことだけとっても、隕石の衝突だけでは説明しきれないのではないかというのです。たしかに、そのとおりかもしれません。

恐竜の歴史は2億年前からあるといわれています。(中略)現在のほ乳類以上に陸・海・空の環境に順応し、種の多様性は富んでおり、さまざまなサイズの種がいました。それなのに、どうして絶滅したのか。

鳥類は恐竜の末裔なので、恐竜すべてが絶滅したというわけではありませんが、それにしてもほとんどの恐竜が消えたのはなぜなのでしょうか。(184ページより)

でも、巨大隕石の衝突が第一の原因でないのだとしたら、どう説明したらいいのでしょう? この問いに対して著者は、「ゲノムレベルで進化のスイッチを入れて失敗したという『ゲノム崩壊説』を提唱したいのだそうです。(182ページより)

進化の賭けに失敗した可能性

気候が変動し、大気中のCO2の量も変わり、大陸は移動し、ときには火山の噴火もあり……と、地球の環境は常に変化を続けています。したがって生き物はそうした環境変化に適応する必要があり、適応できなければ姿を消していくことになります。

変わりゆく環境に適応していくには、自ら体の形や性質・特徴(形質)を変えなくてはなりません。形質を変えるということは、設計図であるゲノムを変えるということです。

今までと同じ形、同じ生き方のままなら、変わっていく環境にやがて適応できなくなります。生物は、こんな進化のギャンブルをやり続けなくてはならない運命なのです。(185〜186ページより)

生物は染色体の数やゲノムのコンテンツを増やしながら、いまの生存力を温存しつつ変異を蓄積することでゲノムを変えてきました。しかし、ゲノムを変えることにはリスクが伴います。繁殖率が下がるほうに変わってしまったら、絶滅に向かうわけです。

どうやら、そこにヒントがあるようです。

私の推測ですが、恐竜もほ乳類も、巨大隕石が落ちたことによる環境激変に対応するためにゲノムの大幅な改変を許したのだと思います。進化のスイッチのようなものを入れた。

必要に迫られて、生き残りを賭けて進化のギャンブルをしていたのではないでしょうか。そして、恐竜のほとんどは進化のギャンブルに負けて絶滅に向い、成功したのは鳥につながる種だけだったということです。巨大隕石がきっかけで進化のスイッチが入り、ゲノムの改変が活発化したが、コントロールが利かなくなった恐竜は、繁殖率も下がってしまって失敗したのではないでしょうか。(184〜185ページより)

隕石の衝突が恐竜絶滅に関与していたことは間違いないとしても、恐竜絶滅の直接的な原因はゲノムの崩壊にあった、著者はそう仮説を立てているのです。(185ページより)

進化のスイッチはどうやって入るのか?

生き物が変化する環境に適応するには、ゲノムを変えたり、遺伝子発現の制御を変えたりしなくてはなりません。その変化が功を奏すかどうかは偶然に左右されますが、変わらなければ環境変化に適応できません。

ゲノム崩壊というリスクを引き受けて「進化のギャンブル」をする生物は、偶然に勝ったり負けたりする中で、ある種は生き残り、ある種は絶滅していく存在だといえるかもしれません。(184〜185ページより)

もちろんこれは著者の仮説であり、正しいかどうかはわからないものでもあります。現実問題として、証明することも非常に難しいことでしょう。しかし、現代においてゲノムの改変を許している生き物をよく調べてみたら、ほ乳類の進化や恐竜の絶滅に関わる大きなヒントを得られるかもしれません。

あるいは、ゲノムを崩壊させずに改変するメカニズムや、改変がうまくいかず崩壊していくプロセスがわかれば、進化や絶滅のメカニズムが具体的に見えてくる可能性もあります。

いずれにしても、まだまだ未知の部分が多く残されているからこそ、私たちはそれらに好奇心を刺激されるのではないでしょうか?(187ページより)

専門用語も多く理解しづらい部分も少なくはありませんが、それでも上記のようなトピックスには“感覚”を刺激する要素も備わっています。そのため柔軟に受け入れてみればきっと、「なるほど!」と思える箇所を見つけ出すことができるはずです。

Source: PHP新書

メディアジーン lifehacker
2023年7月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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