三笘薫のような非凡な選手はいかにして生まれるのか。『VISION 夢を叶える逆算思考』(三笘薫 著)を小説家・染井為人が語る

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VISION 夢を叶える逆算思考

『VISION 夢を叶える逆算思考』

著者
三笘 薫 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784575318067
発売日
2023/06/22
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「ああ、愛しきミトマ」寄稿:染井為人

[レビュアー] 染井為人(作家)

ワールドカップやイングランド・プレミアリーグで存在感を見せつけ世界を驚かせたサッカー日本代表・三笘薫選手が、初の著書となる『VISION 夢を叶える逆算思考』を上梓した。世界で活躍する選手となるまでに、どのような努力を積み重ね、どのように取捨選択をしてきたのか──その驚くべき「思考」の軌跡が詰まった一冊だ。

自身も幼少期からサッカー選手を目指し、Jリーグのテスト生でもあった異色の経歴の小説家・染井為人氏が本書の魅力を語る。

※本記事は小説推理2023年9月号掲載の「ああ、愛しきミトマ」の一部を抜粋・編集したものです。

■「ああ、愛しきミトマ」寄稿:染井為人


三笘薫さん

 2017年の天皇杯全日本サッカー大会において、当時J1に所属していたベガルタ仙台が筑波大学に負けるという、所謂ジャイアントキリングが起きた。

 試合が動いたのはキックオフから数分後だった。学生チームのひょろっとしたおぼこい男の子が自陣からドリブルを始め、迫り来る屈強なプロ選手たちを次々とかわし、そのままボールを持ち運んでシュートを叩き込んでしまったのだ。

 これが素晴らしいプレーであることはまちがいない。まちがいないのだが、このプレーを見た当時のわたしはこう思った。プロが情けねえな、と。相手が学生だと思ってナメてかかるからやられるんだ、と。

 ただ、今はベガルタ仙台の選手たちに深く同情したい。相手が三笘じゃ仕方なかったよね──。

 さて、サッカー界のニュースター三笘薫の話を深掘りする前に、少しだけわたし自身のことを書かせていただきたい。

 何を隠そう、少年の頃のわたしの夢はサッカー選手になることだった。学生時代には全国大会に出場したこともあり、20歳の頃にはJリーグのチームにテスト生として加わったこともある。つまり真剣にプロになろうと目論んでいたのだ。

 ただ結局のところ契約には至らず、わたしはそこでスパイクを脱ぐこととなった。それからふつうの会社員となり、幾度の転職を繰り返したのちに、どういうわけか小説家になった。

「サッカー選手になるつもりが、サッカになっちゃった」

 これはわたしがよく使うギャグで、漏れなくウケる(ていると思う)。

 そんなわたしは今でもサッカーが大好きで、海外リーグもJリーグも、その動向を日々チェックしている。おそらくわたしほどサッカー事情に詳しい小説家もいないだろう。

 で、そんなわたしが今もっとも注目している選手が現在プレミアリーグのブライトンに所属する三笘薫だ。もはや虜になっていると言っても過言ではない。

 さて、三笘の初の著書『VISION 夢を叶える逆算思考』は一足先に読ませていただいた。また、本書の発売を記念したトークイベントにも、現地レポートという建前で潜り込ませてもらった。

 はたして生の三笘は実に神々しかった。単純に男前というのもあるが、なんにせよ超がつく好青年なのである。実に謙虚で、とても礼儀正しい。小学生のファンから質問を受けると、毎回「ありがとうございます」と頭を下げて回答をする。そしてその回答がまた丁寧なこと丁寧なこと。三笘薫という青年はサッカー選手としてだけではなく、一人の人間としても偉大なのだと唸った。

 ところで三笘のことをサッカーが物凄く上手い人として認識していても、いったい何が物凄く上手いのかを知らない人は結構多いのではないか。そういう人のためにわたしが一つおせっかいを焼きたい。

 それはずばり、ドリブルである。サイドからディフェンダーに一対一を仕掛け、華麗なステップを踏み、一気に加速して相手を置き去りにする。その様はスピードスケーターの如し。わたしは毎試合、感嘆してしまう。

 もちろんこれまでの歴史を振り返れば中田英寿をはじめ、海外で活躍した日本人選手は数多くいた。だが先達はみな、日本人らしくチームの規律を守り、狭いスペースでも器用にボールを扱えるという点で評価されていた。三笘のように個の力で相手をねじ伏せてしまうような選手はこれまでいなかったのだ。

 なぜ三笘だけがそんなプレーをできるのかというと、一言で言ってしまえば才能だろう。ハイスピードにも耐えうる身体能力と自由自在にボールを操るテクニック。残酷だが、三笘が魅せてくれる圧巻なプレーの数々は彼の才能が成せる技なのだ。

 三笘薫のプレーは、才能だけによるものなのか? 本書を読むとそれだけではなく、彼の類いまれなる〈思考〉に大きな要因があることが見えてくる。その〈思考〉とは何か。答えは書籍にてお確かめください。

小説推理
2023年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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