芸能界を知る男が紡ぐきらびやかな世界の舞台裏「ぼくの見てきた“ギョーカイ”を詰め込みました」

エッセイ

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芸能界

『芸能界』

著者
染井為人 [著]
出版社
光文社
ISBN
9784334102289
発売日
2024/02/21
価格
1,870円(税込)

魑魅魍魎が跋扈する芸能界

[レビュアー] 染井為人(作家)

 芸能界にわたしが足を踏み入れたのは今から十八年前、二十二歳のときです。それから約十三年間、タレントマネージャー、イベンター、演劇・ミュージカルのプロデューサーなど、様々な仕事をしてまいりました。

 学生時代はずっと運動部で、芸事とはまるで縁がなかったものですから、最初は大いに戸惑いました。初めに携わった現場がゆるいコメディドラマだったこともあるのでしょうが、大の大人がおふざけをしているとでもいいますか、わたしの目にはどうしても遊んでいるようにしか映らなかったのです。こんなことでお金がもらえるのか、ということにまず衝撃を受けました。

 その一方、恐ろしい目に遭うことも(詳細は伏せますが)ありました。理不尽な仕打ちを受けることもしばしばありました。当時の芸能界は今ほどクリーンではなかったので、一般社会では到底許されないことも、〝ギョーカイ〟的にはまかり通ってしまっていたのです。

 そうした数々の洗礼を受け、真面目で純朴(?)な染井青年は打ちひしがれ、次第に心を荒(すさ)ませていきました。とはいえ、心震えるような素晴らしい瞬間、出来事、人との出会いもたくさんありました。でなければとっくに足を洗っていたことでしょう。それとおそらく、わたしの中にモノを作って人を楽しませたいという欲求があったのだと思います。

 さて、前置きがずいぶんと長くなりましたが、本作はそうしたわたしの経験をもとに書きました。執筆中、当時を思い返して胸が苦しくなることがあり、なんだかんだつらい思い出ばかりなんだなあ、と再認識しました。当時に戻れるならまちがっても芸能界には近づかないでしょう。

 ただ、この世界に入っていなかったら、わたしは今こうしてエッセイを書いていないと思います。

 魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する芸能界という場所が、わたしを物書きにさせたのです。

光文社 小説宝石
2024年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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