「人生で初めて小説を読んで叫んだ」イラストレーターが明かす表紙に込めた思いと驚きの“仕掛け”とは

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世界でいちばん透きとおった物語

『世界でいちばん透きとおった物語』

著者
杉井 光 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101802626
発売日
2023/04/26
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「人生で初めて小説を読んで叫んだ」イラストレーターが明かす表紙に込めた思いと驚きの“仕掛け”とは

[レビュアー] ふすい(イラストレーター)


初公開!装画候補だった貴重なイラストの一つ(イラスト:ふすい)

読めば、まるで“透きとおる”ような気持ちになる――。

作品に隠されたネタバレ厳禁の仕掛けと、透きとおるような読後感が話題の『世界でいちばん透きとおった物語』(杉井光、新潮文庫nex)は、表紙までもが透明感に溢れた装いになっている。この透きとおった作品の装画を担当したのは、イラストレーターのふすいさんだ。

作品から何を感じて装画をつくり上げたのか、また作品だけでなく装画にも施された仕掛けについて、ふすいさんが自身の言葉で語ります。

 ***

人生で初めて小説を読んで自然と叫んでしまった

この小説での体験は、最初で最後の出会いかもしれません。

仕掛けに気付いた時、小説を読んで自然と叫んでしまったのは人生で初めての出来事で、その時のことは今でも鮮明に覚えています。

『世界でいちばん透きとおった物語』のストーリーは、大御所ミステリー作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳という若さで亡くなったことから始まります。彼は妻帯者にもかかわらず、多くの女性と不倫し、そのうちのひとりの私生児として生まれた子供が主人公の燈真(とうま)でした。宮内の死後、燈真に異母兄弟から電話がかかってきます。内容は、宮内彰吾の最後の作品「世界でいちばん透きとおった物語」の遺稿を探してほしいというもので、そこから燈真は宮内の様々な関係者を手掛かりに遺稿を探していきます。

秘密が明かされたとき、装画の依頼時に編集さんから言われた「電子書籍化はしない」という言葉の意味が分かりました。これは紙でないと絶対に成り立たない物語だと。

何より、ラストの衝撃と想像の斜め上を超えてくる展開には鳥肌もので、興奮のあまり夜は寝付けないほどでした。

読了後『世界でいちばん透きとおった物語』はまさに透きとおっており、清らかな気持ちにさせられる、そんな体験をしました。電子書籍が当たり前の時代に、紙だからこそできたこの作品は、まさに芸術作品のひとつだと感じました。

装画にも仕掛けが……!

装画を担当するにあたり、実は描くことよりも構想を練るのに時間を要しました。

この物語の人物の性格や重要な要素、印象に残るシーン、世界観、イメージするカラー等を意識して、原稿を読みながらメモをとりましたが、読了後には衝撃のあまり、この作品をどう表現していこうかと非常に悩みました。

この物語はネタバレしてしまうと魅力が減退 してしまうため、装画でも勘付かれないように、細心の注意を払いながら制作していきました。

表紙に採用されている装画以外にも、違う角度から見たラフ、原稿用紙を散りばめたコラージュのようなラフ、燈真と彰吾の関係性を表したラフ等、様々なバリエーションのラフを制作しました。計10案ほどご提案した結果、現在の装画になりました。

表紙に採用されたこの装画は、作中に出てくるある場所が印象的で、そこからインスピレーションが湧きました。燈真が 原稿を握り締めながら桜の木を見つめているのは、宮内彰吾が最期に燈真に伝えたかったことを表しています。

他にも、物語の伏線や情景を表しているので、読む前と読み終わった後では表紙の見え方がガラリと変わって見えるような形にしています。皆様の解釈で楽しんでいただけたら嬉しいです。

色づかいについては、全体的に鮮やかな色彩ではなく、淡い色彩にすることで、儚さとこの物語の透きとおる感じが伝わるように表現しました。

ちなみに、装画にもちょっとした仕掛けをしてあるんです。作中に登場する、ある作品の文章を使っていますので、何が映し出されているのか、読了後に見返してもらうと作品の魅力の発見につながるかもしれません。

この作品で得られるのと同じ体験はこの先起こることはなく、この驚きと感動は一度きりだと思います。

未読の方がこれから『世界でいちばん透きとおった物語』に出会えることが羨ましい限りです。もしタイムスリップができるのならば、またあの感動と驚きをもう一度味わいたいと強く願うほどに。

なので、未読の方は決してネタバレを踏まずに読んでみてください。読んだ人にしか体験できない“透きとおる”が待っています。

新潮社
2023年9月 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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