『白鶴亮翅(はっかくりょうし)』多和田葉子著(朝日新聞出版)

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白鶴亮翅

『白鶴亮翅』

著者
多和田葉子 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022519047
発売日
2023/05/08
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『白鶴亮翅(はっかくりょうし)』多和田葉子著(朝日新聞出版)

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

 太極拳の型のように、滑らかに物語は進む。

 夫と別れ、一人ベルリンに住む翻訳家のミサは、お隣に住む初老の男性Mさんと知り合う。Mさんのお願いで、一緒に太極拳クラスに通うことになったが、そこには様々な人がいた。

 ミサの日々は、ふと向こう側へと迷い込む。家電たちがおかしな関西弁で話しかけてきたり、蛇足という言葉を考えていると足の生えた蛇を見たり、森の中にある不思議なケーキ屋さんに辿(たど)り着いたり、道行く老婆に捨てられた月を見せて貰(もら)ったり。

 母国語でない言葉だからか、人々の会話はとても丁寧で、少し距離がある。

 Mさんは東プロイセン出身、パートナーはプルーセン人の末裔(まつえい)だという。太極拳クラスにもロシアや、中国、フィリピン、様々な国から人が集まる。出身も文化も人生の背景も違う人たちが、同じポーズをとり、静かに呼吸をする。歴史と政治、傷みに満ちた複雑な関係性が、時に太極拳を通じて繋(つな)がる。

 タイトルにある白鶴のように壁や国境など飛び越えて、人の心に降り立つことができればいいのに。

読売新聞
2023年9月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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