<書評>『報道弾圧 言論の自由に命を賭けた記者たち』東京新聞外報部 著
[レビュアー] 高橋浩祐(国際ジャーナリスト)
◆民主主義のため屈せず
ジャーナリズムは民主主義の砦(とりで)だ。古今東西、言論の自由が失われ、国家が全体主義や無謀な戦争に突き進んだ例は枚挙にいとまがない。かつての軍国日本やナチスドイツがそうだった。
その民主主義の旗振り役である世界各地の記者たちが権力悪に敢然と立ち向かう姿を追った渾身(こんしん)の著作だ。軍事機密をスクープし、国家反逆罪の容疑で逮捕されたロシアの軍事記者、コロナ下の生活の惨状を発信して中国当局に拘束された市民記者、政権批判で殺害されたサウジアラビアの著名ジャーナリスト、スパイ容疑で死刑にされたイエメンの記者。
「報道の自由は全ての権利の土台だ。私たちが屈すれば、民主主義は死ぬ」。当局が認めるだけで6千人超の死者を出した、ドゥテルテ比前政権期の強引な麻薬取り締まりを追及したノーベル平和賞受賞記者マリア・レッサの言葉が重い。
当局の情報に依(よ)らずに報道機関の責任で独自に調査取材する。報道の自由と市民の知る権利の大切さを改めて教えてくれるジャーナリズム魂が溢(あふ)れた一作だ。
(ちくま新書・1012円)
本紙企画「メディアと世界」を基に記者が追加取材した。
◆もう一冊
『追及 体験的調査報道』山本博著(悠飛社、品切れ)。調査報道の手法を具体的に教示。