<書評>『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』三浦英之 著
[レビュアー] 高橋浩祐(国際ジャーナリスト)
◆経済成長期の不条理
敗戦後に中国に取り残された日本人残留孤児のことは多くの人が知っている。しかし、日本が戦後の経済成長中にアフリカに置き去りにした日本人の子どもたちについて知っている人は少ないだろう。本書は、そうした子どもたちの存在と苦難の人生を調査報道という「ペンの力」で日本社会に知らしめ、救済の光を当てようとするものだ。
時は一九六〇年代後半から八〇年代前半にさかのぼる。いざなぎ景気が続く中、日本を代表する鉱山企業の日本鉱業がアフリカ中部の資源国コンゴ民主共和国に進出し、巨大な銅鉱山を開設した。その際、現地に駐在していた日本人労働者とコンゴ人女性との間に生まれた五十〜二百人の子どもたちが置き去りにされたという。驚くべきは、そのコンゴ人女性の多くが十三歳から十六歳という少女たちであったことだ。一方、日本人労働者は二十代後半から四十代が中心だったとされる。
コンゴでは父系社会が色濃く残り、残された母親と子どもは家制度と家計の大黒柱を失い、貧困生活にあえぐことになったという。かつて日本鉱業の銅鉱山が開設されていた町周辺には、女の子の子どもたち四人が暮らしているが、生活のために十代初め頃から売春を始め、今も続けているとの証言も紹介されている。セーフティーネットのない貧困の悪循環だ。日本には支援の手を差し出す道徳的義務がある。
著者は、朝日新聞アフリカ特派員時代から取材と執筆に六年もの月日をかけ、本書を刊行した。きっかけは二〇一六年三月にツイッターに寄せられたリプ(返信)だったという。以来、日本人残留児三十二人を含め、数多くの当事者に直当たり取材をした。「私は自ら目撃した不条理を見て見ぬ振りをすることはできなかった」。ジャーナリスト魂には感服するばかりだ。
本書では述べられていないが、書名は、中国の日本人戦争孤児の苦難を描いた山崎豊子氏の大河小説『大地の子』にちなむのは明らか。『大地の子』は戦争の非人間性に鋭く迫ったが、本書は戦後日本の良心を強く問うものである。
(集英社・2750円)
1974年生まれ。朝日新聞記者、ルポライター。著書『五色の虹』など。
◆もう1冊
三浦英之著『南三陸日記』(集英社文庫)。東日本大震災直後に宮城県南三陸町に1年間住み込んで被災者を取材したルポルタージュ。