『本の背骨が最後に残る』
書籍情報:openBD
理想の悪夢でありますように
[レビュアー] 斜線堂有紀(作家)
夢に出るような物語が書きたい。眠るのが恐ろしくなるような物語が。全ての短篇に共通して込めた想いはそれである。
この短篇集には傑作アンソロジー《異形コレクション》に寄稿した短篇を集めてある。どれもとあるテーマに基づいて書かれた、奇妙でおぞましく恐ろしい物語だ。読んだ人間の心に傷を残すよう、敢えて露悪的に書いたものも多く、自分の今まで書いてきた作品とは少々毛色の違う作品が揃っている。だからこそ、今の自分が最も自信を持っている一冊だ。
かつての私にとって《異形コレクション》は特別なアンソロジーだった。載っている作品の全てが面白く、強烈に記憶に残る。恐ろしいのにページを捲る手が止められず、ついには読み切ってしまう。《異形コレクション》を読んだ夜は、決まって異形の夢を見た。そのくらい、私にとっては刺激的な一冊だったのだ。
心に傷を残す読書、と聞くと恐ろしくもあるが、甘やかでもある。物語が現実を侵食する味を覚えれば、その読み手は一生本を手放せないだろう。私が目指すところはそれだ。血を吐くような物語が、読者の魂に食い込んでほしい。
表題作の「本の背骨が最後に残る」は、物語に囚われた者達が巻き起こすおぞましい饗宴を描いた小説である。この小説には、生きた本達の語る物語に魅せられると同時に、その「生きた本達が闘いの果てに焼かれる」という物語までをも味わい尽くす欲深い読者達が出てくる。“本”が焼かれる様は読み手すら熱に息苦しくなるよう、丹念に描写を重ねた。私が夢に見てほしい場面は、間違いなくここである。閉じた瞼の裏に、明々とした炎が躍ってほしい。
それは果たして悪夢だろうか。それとも甘美な夢だろうか。どちらにせよ、本望である。読まない方がいいかもしれない。けれど読んでほしい。私は想像の膨らむこの暗闇でじっと貴方を待っている。