『本の背骨が最後に残る』
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<書評>『本の背骨が最後に残る』斜線堂有紀 著
[レビュアー] 石堂藍(ファンタジー評論家)
◆残酷さの中にきらめき
7編を収録する短編集。表題作と対をなす「本は背骨が最初に形成(でき)る」を除けば、世界設定がすべて異なるという凝ったつくり。ただ嗜虐(しぎゃく)性は共通している。
表題作は、紙の本がすべて燃やされ、本の内容を記憶して語る者が「本」と呼ばれる国がある、という設定。と聞けば、ブラッドベリの『華氏451度』を思い浮かべる本好きは多いだろう。だが、作者はそうした連想を一刀両断し、「本」が語る内容の移ろいを問題にする。そして邪悪な性格の「本」を描くことによって、物語を作る者の業を語るのである。
このほかの作品でも、病気治療の痛みを引き受ける役目の「痛妃(つうひ)」、局地的な雨に降りこめられて身体が崩れてゆく「降涙(こうるい)」、生前にこうと決めた動物に転生する「転化(てんげ)」など独自の言葉を用い、ユニークな物語を紡いでいる。VRや時間旅行のような通常のSF設定が使われているものもあるが、物語自体はやはり残酷さに満ちて悲しく、恐ろしい。毒の水だと分かっていても、そのきらめきに思わず吸引される。そんな作品群である。
(光文社・1870円)
作家。著書『楽園とは探偵の不在なり』『回樹(かいじゅ)』など。
◆もう1冊
『結ぶ』皆川博子著(創元推理文庫)