<書評>『本の背骨が最後に残る』斜線堂有紀 著

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本の背骨が最後に残る

『本の背骨が最後に残る』

著者
斜線堂有紀 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334100513
発売日
2023/09/21
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『本の背骨が最後に残る』斜線堂有紀 著

[レビュアー] 石堂藍(ファンタジー評論家)

◆残酷さの中にきらめき

 7編を収録する短編集。表題作と対をなす「本は背骨が最初に形成(でき)る」を除けば、世界設定がすべて異なるという凝ったつくり。ただ嗜虐(しぎゃく)性は共通している。

 表題作は、紙の本がすべて燃やされ、本の内容を記憶して語る者が「本」と呼ばれる国がある、という設定。と聞けば、ブラッドベリの『華氏451度』を思い浮かべる本好きは多いだろう。だが、作者はそうした連想を一刀両断し、「本」が語る内容の移ろいを問題にする。そして邪悪な性格の「本」を描くことによって、物語を作る者の業を語るのである。

 このほかの作品でも、病気治療の痛みを引き受ける役目の「痛妃(つうひ)」、局地的な雨に降りこめられて身体が崩れてゆく「降涙(こうるい)」、生前にこうと決めた動物に転生する「転化(てんげ)」など独自の言葉を用い、ユニークな物語を紡いでいる。VRや時間旅行のような通常のSF設定が使われているものもあるが、物語自体はやはり残酷さに満ちて悲しく、恐ろしい。毒の水だと分かっていても、そのきらめきに思わず吸引される。そんな作品群である。

(光文社・1870円)

作家。著書『楽園とは探偵の不在なり』『回樹(かいじゅ)』など。

◆もう1冊

『結ぶ』皆川博子著(創元推理文庫)

中日新聞 東京新聞
2023年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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