悪辣な投資家や悪意あるプロ経営者に鉄槌を下すたったひとつの方法

エッセイ

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ショート・セール

『ショート・セール』

著者
楡周平 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334100506
発売日
2023/09/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

プロ経営者に鉄槌を下す方法

[レビュアー] 楡周平(作家)

 ここ数年、コロナのせいもあって、韓流沼にどっぷり浸かり、彼の国のドラマを見まくる日々を過ごしてきた。

 韓流ドラマの状況設定には、幾つかのパターンがある。中でも最も多いのが、財閥の後継者争いが絡むものである。オチも同様、正義感溢れる主人公が勝つのは当然なのだが、「経営の専門家に任せる」と経営から身を引く決断をしたところで終わるのが目につく。

 いうまでもなく「経営の専門家」とは「プロ経営者」のことだが、韓国に限らず日本でも、業績の低迷が続く、あるいは大不祥事を起こした企業が社風一新、体質改善を目的に、新社長を外部から招聘した例は数多ある。

 では、プロ経営者の定義とは、いかなるものなのだろう。

 たった一社の経営経験ではプロとはいえない。複数企業のトップを務め、少なくとも在任期間中は株主に評価される実績を挙げたからこそ、プロ経営者と認知されたのだろう。

 当然、在任期間は生え抜きに比して短い傾向があり、可及的速やかに結果を数字で示すことを強いられる。となれば最も効果的、かつ手っ取り早い手段は、不採算部門を切り捨て、資産を売却して黒字化を図ることである。

 社内事情に通じている生え抜きならば憚られるようなことでも、外から来た人間には関係ない。外国人なら尚更だし、たとえ短期的であろうとも、業績が改善されれば株主から評価され、それがさらなるステップアップにつながるのがプロ経営者なのだ。

 して考えると、重厚長大産業を柱に成長し、その間に蓄えた莫大な資産を保持しながらも、低迷に喘ぐ日本企業は、投資家にとって実に魅力的な存在に映るに違いない。なぜならば、株主=投資家の関心は短期間にどれほど高いリターンを得られるかにあるのであって、株式を売り抜けた後、その企業がどうなろうと知ったことではないからだ。

 本書はそうした日本企業の現状をベースに、悪辣な投資家、そしてその意を受けた悪意あるプロ経営者に鉄槌を下す物語である。

光文社 小説宝石
2023年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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