『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』
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<書評>『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』村岡俊也 著
◆「天才」の精神世界たどる
1989年に生まれた中園孔二は、東京芸大絵画科油画専攻に現役合格直後から才能を認められ、卒業制作はすぐに有力画廊の買い上げになり、数々を受賞する。描き始めたら止まらない多作で画風は多岐にわたり、精神の遍歴が表れる。
深夜の一人歩きを好み、人気(ひとけ)のないビル屋上に上がり、森を何時間も歩き、高い崖に立ち、疲れるとそこで寝てしまう。大阪の美術展の帰りの電車賃がなく、親に電話して駅に来てもらうのは日常のことだった。叔母が連れて行ったイタリアでも1人残り、各地を野宿で放浪した。2015年、瀬戸内の海でいつものように衝動的に向かいの島へ泳ぎ、そのまま水死。25歳の生涯で残したおよそ500点は、世界で高い評価を受けている。
天才とは、生まれた時から独自の才能を持ち開花させた人だ。残した150冊の制作ノートを読み解き、家族、友人、専門家に取材を重ねた本書は、その「天才」の人物、行動、精神世界をくまなく検証。読み終えると、掲載された鮮明なカラー作品図版が一層奥深く見えてくる。
(新潮社・3630円)
1978年生まれ。ライター。著書『新橋パラダイス』など。
◆もう1冊
『最後の秘境 東京藝大』二宮敦人(あつと)著(新潮文庫)