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[ホラー・ミステリ]『ちぎれた鎖と光の切れ端』荒木あかね/『ラザロの迷宮』神永学/『エレファントヘッド』白井智之
[レビュアー] 村上貴史(書評家)
昨年史上最年少で江戸川乱歩賞を受賞した荒木あかねの第二作が『ちぎれた鎖と光の切れ端』(講談社)だ。二〇二〇年。高校時代の仲良しグループを中心とする八人の男女が、島原湾の孤島に集まった。その一人、樋藤清嗣は、仲間たちを皆殺しにすべく毒物を忍ばせていた。だが、彼がその殺意を実行に移す前に、仲間の一人が殺された。一体誰が、何故。通信手段もない孤絶した環境で、殺人は続く……。スタイルは典型的な孤島ミステリだが新鮮に読ませる。誰かに先を越された樋藤が視点人物という設定がそうさせるし、次に殺される者を決めるルールにも(帯に記載はあるが)驚かされる。孤島に集った面々による推理も刺激的だ。しかしながら読者は途中で戸惑うだろう。孤島ミステリを味わう第一部と、後半第二部とのギャップに。そう、本書後半は大阪市環境局でごみ収集を担当する女性の日常で始まるのだ。彼女の物語がどう展開するのか、第一部の孤島ミステリとは関係するのか。読了後、作者の技巧に感嘆し、結末に驚愕すること必至だ。中心人物たちの造形も達者で、謎と物語を生み出す著者の才能を改めて実感した。
《心霊探偵八雲》シリーズが人気の神永学。彼の新作『ラザロの迷宮』(新潮社)は、野心的なノンシリーズ作だ。荒木作品の舞台は孤島だったが、本書では、湖畔の洋館に八人の男女が集まる。殺人事件を題材とする参加型の謎解きゲームに興じるのだ。真相解明まで館から出られないというルールのもと、ゲームは始まった。ほどなく彼等の眼前に転がった死体は、“ごっこ”ではなく本物だった……。これまた典型的な閉鎖環境ミステリなのだが、そこに、血塗れで警察を訪れた記憶喪失者の素性を探る警察小説が絡んでくる。交互に語られるこの二つの物語がどう展開するのか、そして両者の関係は――という具合に荒木作品と“表面的には”共通する点があるのだが、いやはや、全く別種の刺激を堪能できる。多様な驚愕が連続したあげく、あんな角度から真相が顔を出すとは。ギリギリの綱渡りを愉しめる素晴らしい出来映えだ。凝った造りのカバーにも要注目。
白井智之の『エレファントヘッド』(KADOKAWA)は、今年の本格ミステリ大賞受賞者が謎解きに全精力を傾けるとこうなる、という一作だ。良識やらなにやらは二の次にして、とにかく驚愕すべき現象を起こし、その謎にミステリとして合理的な真相を、しっかりとした伏線とともに与えることに特化しているのだ。ストーリー紹介は、妻と二人の娘を持つ精神科医の日常が千々に乱れていくと語るにとどめておこう。なにしろ序盤からとんでもない展開が続くので。そんな物語のなかで、ロジックはひたすらに冷徹。ミステリとして美しく着地する。登場人物たちの多くは心身を破壊されるのだが、本書を成立させるためにはそれもやむなし。そう思わせる衝撃の書を、是非御一読あれ。