新人賞二冠・真門浩平の短編集『ぼくらは回収しない』など、「新しさ」際立つミステリ3選

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  • 殺める女神の島
  • 観測者の殺人
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[本の森 ホラー・ミステリ]秋吉理香子『殺める女神の島』/松城明『観測者の殺人』・真門浩平『ぼくらは回収しない』

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 秋吉理香子『殺める女神の島』(角川書店)は、孤島で殺人が連続するミステリだ。だが、よくあるパターンと思うなかれ。相当に新鮮で衝撃的な一冊なのだ。

 モルディブ沖のリゾートアイランドに、ミスコンの最終候補者七人が集まった。彼女たちは、主催者と共にこの島に滞在し、最終審査の準備を進めるのだ。だが、早々に主催者が誰かに襲われて意識不明に陥る事件が起き、さらに候補者の一人の命も奪われてしまう。通信機器も破壊され、彼女たちは、この孤島に封じ込められる……。

 女性達の共同生活が進むにつれ関係がギスギスしていく様がまずスリリングだし、さらに連続殺人の興味も加わって刺激は絶えない。一つの座を争うオーディションという枠組みも巧みに活かされていて感服。物語全体の構想も新鮮で、心底満足した。

 人間に適切な情報を入力すれば、期待する行動という出力が得られる――そう主張する“鬼界”なる人物を暗躍させた『可制御の殺人』(小説推理新人賞最終候補作の短編が起点の連作短編集)でデビューした松城明。新作『観測者の殺人』(双葉社)でも再び“鬼界”に人々を操らせる。

 人気Vチューバーのメイノが生配信中に殺された。「観測者」を名乗る人物が巨大SNSクォーカで犯行声明を出し、連続殺人を予告した……。メイノの友人が「追跡者」として独自に事件の調査を進め、「部外者」がそれを支援する。彼等の調査の進展や「観測者」の更なる殺人が各自の視点で描かれるなか、ネット上の悪意を抑止しようとするクォーカのエンジニア「変革者」の視点でも事態の推移が語られる。この四視点の構成を軸として、著者はSNSにおける言葉の暴力の脅威を浮き彫りにすると同時に、ある仕掛けを仕込む。それが発動したときの驚きは強烈。ロジカルには全否定しにくい“鬼界”の不穏な存在感とあわせ、話題作の続編の魅力を満喫した。

 真門浩平『ぼくらは回収しない』(東京創元社)は、「ミステリーズ!新人賞」受賞作の「ルナティック・レトリーバー」に書き下ろし四編を加えた短編集である。著者は、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」で入選した『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』の書き手でもあり、ダブル受賞で注目されている。本書の収録作は、結末で登場人物に刃を向けるものもあれば、温もりを感じさせるものもある。探偵の相棒が探偵よりも少ない情報で犯人特定に至るロジックを味わうという新たな愉しみもあれば、世界が反転する衝撃も堪能できる。各編に共通するのは、この著者が、罪を犯す/推理する/それを語ることについて、その心理や影響を深く考えている点だ。それ故の刃であり、温もりなのである。注目必須の新人だ。ちなみに著者の誕生年が一九九九年、受賞した新人賞が第一九回、本書が叢書の一一九番。この“一九づくし”も、なんだかこの著者の才能のように思えてくるから不思議だ。

新潮社 小説新潮
2024年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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