『職場にやる気が湧いてくる対話の技法』
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忙しすぎるリーダーへ。がんばらなくてもチームが動く「うまくいく共有・対話の進め方」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
多くの管理職の方々は、「やるべきことをやる力」「がんばる力」を相当高いレベルで持っているもの。しかし、結果的には自分自身で実務を受け持ち、部下管理や他部門との調整も行なったりすることにもなりがちなので、若手から「あんなに忙しい管理職になりたくない」と思われたりすることもあるのではないでしょうか。
そこで、「できるだけ『がんばらないで済むように知恵を働かせる』ことが重要」なのだと主張しているのは、組織開発に関するコンサルティング活動に携わっている『職場にやる気が湧いてくる対話の技法』(髙木穣 著、同文舘出版)の著者。
部下に「任せる」「頼る」「信じる」ことを通じ、管理職ががんばりすぎることなく、全体で前に進んでいくことを優先すべきだというのです。また、仕事のなかにもっと各人の「やりたいこと」や「得意なこと」を増やしていくことも大切であるようです。
「管理職がメンバーに頼る」+「メンバーがより自律的になる」こと、「やりたいこと」「得意なこと」をする比率を増やす。それこそが、「チームで仕事をする」ということだという考え方。
働く人たちのウェルビーイングのためには、私たちは「チームで仕事をする」ことを学んでいくことが大切です。
この本は、上司ががんばって部下を個別に管理することから、少人数でチームをつくり、それぞれのやりたいことや特性を認め合いながら助け合う組織づくりにチャレンジしてみましょう、リーダーが引っ張るのではなく、みんなで前進していく、そんなマネジメントを実現していきましょう、そのために上手に対話の「場」(余白)をつくりましょう、と言っている本です。場づくり活動=「場活」のおすすめ本とも言えます。(「はじめに」より)
「管理職やリーダーの方々がいまの状況をなんとかしようと孤軍奮闘している状況を、少しでも楽にできないか?」。そんな思いから、著者は本書をまとめたのだそう。きょうはそのなかから、第8章「チームで軸を共有する」に焦点を当ててみたいと思います。
共有→共感→共創造のプロセスデザイン
ひとりひとりの個性を活かしやすくするために重要なのは、「目的の共有」。
外に向かって実現しようとすることの共有度が高いほど、個性を活かし合うことができ、個人の自由度は増すわけです。逆に共有度が低いと、どうしても個人の考え方ややり方の違いが摩擦のもとになってしまうものでもあるでしょう。
そして、目的はみんなが「肚に落とす」ことが大事なのだと著者はいいます。
昔、トヨタの方と話し合いをしたことがあります。ある程度内容は決まっているのに、粘り強く議論を続けています。なんでこんなに長々と話しているんだろうと思っていたら、あるタイミングで1人の方の「うん、肚に落ちた」という言葉で会議は終わったのです。
この話し合いは、物事を決定するのではなく、肚に落とすために行なっていたようです。(150〜151ページより)
著者が関わったチームでも、話し合いの結果、「肚に落ちた」という主観が訪れると、そこから先は各人がそれぞれ考えて自由に動き出すそう。
つまりチームが目的を共有するには、論理的思考だけでなく、「肚に落ちた」という感覚を伴うことが重要だということ。そこで著者も、それぞれが思っていること・感じていることを共有しているのだとか。
そこから共感が生まれ、それに向かってやっていこうとメンバーが自然に動き出すようなプロセスを意識しながら場づくりを行なっているということ。著者はこれを、「共有→共感→共創造のプロセス」と呼んでいるそうです。(150ページより)
「問題・ありたい姿・課題」の3つを共有する
個性を活かし合うチームになるためには、目的や方向性をしっかり共有しておくことが重要。そしてチームの目的や意味を共有したあとには、活動の方向性の共有もまた必要になるはず。
その時に欠かせないのが、3つのポイントを押さえておくことです。これはよく言われることなのですが、実際にはあまりできていないように思います。
3点とは「問題・ありたい姿・課題」です。(153ページより)
まず「問題」とは、「いまのどんな現状を変えなくてはならないのか」。この問題が多くの人の共感をもって定義されると、共感した人たちは「この現状からなんとか脱していこう」と思える仲間になるというのです。
ビジョン共有も、目指す姿だけでなく、「この状況を脱したい」がセットで入っているほうが理解しやすくなるもの。それほど、人の「嫌な状況から脱したい」という思いは強いということです。
2つ目が、問題状況から抜け、“どこに行くか”を示す「ありたい姿」。ビジョン・パーパス・ミッションなど、さまざまなことばで表されるものです。
そして共有すべき3つ目が「課題」。著者は会社の変革をサポートする際には「変革課題」「変革コンセプト」と呼んでいるそうです。ちなみにこの課題設定には、かなりの対話が必要となるようです。
ふわっとした課題ならすぐに設定できるでしょうが、現実を変えていく課題設定とするためには、新しいアイデアや考え方を盛り込むことが必要になるからです。
業績がじり貧になっていた、コンクリート製品をつくっている会社の例をあげましょう。この会社には、「鉄でつくられているのが当たり前になっているものを、なんとかコンクリート製品に入れ替えることはできないか」という問題意識がありました。そこから「鉄に勝つ!」という変革課題を掲げ、新製品を生み出し、業績を回復させました。これは課題設定がうまくいった例です。
あるカーディーラーでは、お客さんはひとりひとりの営業マンについていました。したがって、同じ店に来るお客さんでも、自分の顧客以外には、お客さんとしての対応をあまりしていませんでした。そこから「お店のファンづくり」というコンセプトをつくり、営業・フロント・メカニックがチームで実績を上げられるお店に変貌した例もあります。(154〜155ページより)
こうした例からもわかるように、課題設定にはなんらかの新しい視点が求められるわけです。そこで著者は、まず問題を定義すること(Define)、夢を描くこと(Dream)、そして新しい切り口を発見して課題設定すること(Discovery)の3点をグリップする(みんなで握る)ことを「3Dグリップ」と呼び、多くの人と方向性を共有するために道具にしているのだといいます。(153ページより)
著者の組織活性化のコンサルティング経験と、経営学や心理学の知識を組み合わせた一冊。気になる部分を読むだけでも、確実に得るものがありそうです。
Source: 同文舘出版