あのサブカルチャーの聖地は怪談の聖地だった…!? ミステリースポットの真相に迫る! 『中野ブロードウェイ怪談』渡辺浩弐インタビュー

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中野ブロードウェイ脱出ゲーム

『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』

著者
渡辺 浩弐 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041023280
発売日
2017/11/25
価格
1,144円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

あのサブカルチャーの聖地は怪談の聖地だった…!? ミステリースポットの真相に迫る! 『中野ブロードウェイ怪談』渡辺浩弐インタビュー【お化け友の会通信 from 怪と幽】

[文] カドブン

東京都中野区にある中野ブロードウェイ。サブカルチャーの聖地として世界中から注目を集めるこの場所は、多くの怪談や都市伝説が囁かれるミステリースポットでもあるという。
『中野ブロードウェイ怪談』でその真相に迫った作家・渡辺浩弐さんにお話をうかがった。

取材・文:朝宮運河 写真:首藤幹夫

■ここで囁かれている怪談には、時代の記憶が刻まれている

開かずのカフェ「K-CAFÉ」の前、謎のマークの“パワースポット”のところ...
開かずのカフェ「K-CAFÉ」の前、謎のマークの“パワースポット”のところ…

大型ビルの中にアニメグッズやコミック、懐かしの玩具などの専門店がずらりと並ぶサブカルチャーの聖地・中野ブロードウェイ。渡辺浩弐さんの『中野ブロードウェイ怪談』は、この施設内で囁かれる怪談や都市伝説を拾い集めた「ほとんど本当の話」のショートホラー集だ。
「ブロードウェイに怪談はかなり多いんです。僕は人よりブロードウェイに滞在している時間が長いから、余計怪しい噂を見たり聞いたりしやすいのかもしれないですね。SNSでその手の投稿を見かけたら、すぐに現場に駆けつけますし、変わった人がいたら失礼にならない範囲で話しかけたりもしています」
ブロードウェイを知り尽くした渡辺さんが、長い時間をかけて蒐集した26話。おばあさんの押すベビーカーに乗った毛むくじゃらの赤ん坊、ビル5階の宿泊施設に現れる座敷わらし、地下から響く鐘の音、行ってはいけない店……。これらの怪談には共通点がある、と渡辺さんはいう。
「ブロードウェイの怪談は、この建物の歴史と深く関わっています。中野ブロードウェイが建てられたのは高度経済成長期の1960年代。東洋一と呼ばれたショッピングセンターと高級マンションが一緒になった、当時としては最先端の複合施設でした。それが時代とともに衰退しかけますが、80年代からオタク向けのショップが少しずつできはじめ、90年代から2000年代にかけてサブカルの聖地として活気を取り戻す。そうした数十年の歴史が、澱のように積み重なっている場所なんですよ。こんな施設は日本でも珍しい。囁かれている怪談にも、そうした時代の記憶が刻み込まれています」
怪しげなエピソードをそのまま紹介するだけでなく、その真相にできる限り迫ろうとするのも本書の特徴。SFを数多く手がけてきた渡辺さんならではの、科学的思考が光っている。
「昔ながらの怪談も、科学が発展していなかった時代の人たちには怖かったんだろうと思いますが、今読むとどこかおとぎ話のような感じを受けますよね。たとえば小泉八雲の『怪談』ののっぺらぼうの話がそう。面白いけど、僕としては納得がいかない部分もある。そこにSF的・ミステリー的な解釈を持ち込んで、謎を深掘りすることで、現代的な怖さが生み出せるんじゃないか、というのがこの本のスタンスです。これは小松左京さんや筒井康隆さんなど、日本のSF作家たちがさかんに試みていたことでもあります。深掘りして面白いものがどんどん出てくるのは、ここが中野ブロードウェイという特殊な場所だからでしょうね」
たとえば商店街でしばしば目撃されている毛むくじゃらの赤ん坊の正体は、1970年代に抽選会で配られたサルではないかとの解釈が語られる(「赤ん坊じじい」)。商店会の資料には、生きた動物をプレゼントしたという記録が残されているのだ。
「中野ブロードウェイは底なし沼なので、謎を解いたらまた次の謎が出てきます。毛むくじゃらの赤ん坊からジャワザルが現れて、さらにはジャワ原人までたどり着いてしまった。どの話にも意外な真相がありますし、謎が解かれても怖さが消えることはありません。真相を知ったうえで再読するのも楽しいと思います」
渡辺さんのリサーチはときに中野ブロードウェイ竣工以前にまでさかのぼり、江戸・東京の歴史の闇に迫っていく。
「このすぐ近くに中野セントラルパークという公園がありますが、あそこは戦前まで旧陸軍の管轄地で、スパイ養成学校として有名な陸軍中野学校が置かれていた土地です。中野ブロードウェイが建っているのは、日露戦争の英雄・乃木将軍の別邸跡地。そしてその地下には巨大トンネルが掘られていたという都市伝説がある。中野という土地が、一種のミステリースポットなんです」
渡辺さんと中野ブロードウェイの関わりは深い。この場所がサブカルの聖地と呼ばれる前から、よく足を踏み入れていた。
「僕が上京してきたのは1981年。中野のアパートに住んでいたので、中野ブロードウェイのことは気になっていました。当時の商店街は一部シャッター通り化していましたが、かつての賑わいもうっすら感じられる場所でしたね。その空き店舗にオタク向けのショップがぽつりぽつりと出来はじめて、気づくとそんなお店ばかりになっていた。衰退しかけた商店街がサブカルの聖地として再生していく過程を見られたのは、面白い経験でした」
中野ブロードウェイ好きが高じて、30年ほど前には4階奥の物件を購入。飲食店「K-CAFÉ」のオーナーとなった。ゲームや小説にも登場するこのカフェには世界中からファンが訪れるというが、オープンしている日は少ない。
「なるべくお客の来ないカフェをやりたかったんです。申し訳ないことにほとんど閉めているんですが、それもまた都市伝説っぽくていいんじゃないかなと。お店のドアの前には謎のマークがあって、あれはエネルギーを充填できるパワースポット。最近はそういう噂も広めようとしています(笑)」
今回の取材場所となったこのカフェでも、怪しいことは起こっている。改装のため壁の中のパイプを切った際、謎の液体が噴き出したというのだ。もちろんこのエピソードも、『中野ブロードウェイ怪談』に収録されている。
「中野ブロードウェイには建設時の設計図が残っていないといわれています。もちろん設計図はあったのでしょうが、当時としては例のない巨大建築物を、ごく短期間で作り上げたために、あちこち不思議な構造になっているんですね。しかも改装に改装がくり返され、古いインフラの上に壁を作って、また新たなインフラを設置している。この店の壁板を外してみたら、歴代のコードやパイプが縦横無尽に走っていました。中野ブロードウェイならではの光景ですね」
掘れば掘るほど興味深いエピソードが現れる。渡辺さんは商店会に保存されていた資料を漁り、忘れられた中野ブロードウェイの姿を日々掘り起こしている。
「高度成長期の頃は『ペットグランドフェスティバル』が開催されたり、屋上でお祭りが開かれたりしています。昭和の日本って活気があったんだなとあらためて感じますね。開業当初は地下水を利用した釣り堀まであったらしい。調べても作品に使えるのは一部ですが、この場所がどういう使われ方をしていたかを知ることは面白いし、それを若い世代にも伝えていけたらと思っています」
高級ショッピングセンターからサブカルの聖地へ。このちょっとありえない転換がうまくいったのは、個人の価値観を尊重する気風が、中野ブロードウェイに根付いているからだという。
「価値あるものは高値でも買いたい、古くていいものはビンテージとして尊重する、そんな昭和のお金持ちの感性が、もともとあった。それってアニメのセル画や探していたおもちゃに何万円も出すオタクの感性と、響き合うところがあるんじゃないでしょうか。実際商店街にはアンティークドールや骨董品の店もあれば、若い人向けのフィギュアショップもある。それが並んでいても違和感のない空間なんです。異なる趣味の人たちが尊重し合いながら、好き勝手に営業しているのが中野ブロードウェイの面白さですね」
この本を読んだらぜひ一度、中野ブロードウェイに足を運び、カオスでレトロな雰囲気を味わってみてほしい。賑やかな商店街のそこここに、このビルの歴史と怪異の気配を感じ取れるはずだ。
「いわば〝会いに行ける怪談〞ですよね(笑)。初めて来た人は、このヤバい雰囲気はなんだと戸惑うかもしれませんが、そのヤバさこそが魅力。ジャングルには美しい鳥や美味しい果物もありますが、毒のある生物もいるじゃないですか。しかも安全で、小さな子からお年寄りまで豊かな体験ができる。まず一度来てもらいたいという思いがありますね。もし怪しいものを目撃したら、すぐに連絡をください。取材に行きますから」

※「ダ・ヴィンチ」2023年11月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

■プロフィール

渡辺浩弐(わたなべ・こうじ)
1962 年、福岡県生まれ。作家。ゲーム・映像ソフト制作会社GTV 代表。著作に「ゲーム・キッズ」シリーズ、『アンドロメディア』『怪人21 世紀 中野ブロードウェイ探偵 ユウ&AI』『渡辺浩弐ホラー選集』など。中野ブロードウェイ4 階にあるK-CAFÉ のオーナーでもある。

KADOKAWA カドブン
2023年10月21日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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