注目度は高くないが要チェックの新人 すばる文学賞受賞者

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注目度は高くないが要チェックの新人 すばる文学賞受賞者

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


「す ば る 2023年11月号」

 10月は『新潮』『すばる』(ともに11月号)、『文藝』(冬季号)で新人賞の発表があった。各誌なかなか鳴物入である。

 新潮新人賞の受賞者は2名。表紙や目次で、片や「17歳・史上最年少受賞」で「三島由紀夫を継承する」と謳われ、片や「大江健三郎の魂を受け継ぐ新星!」と称えられている。

『文藝』は創刊90周年記念として今年限定で短篇部門を復活、文藝賞本賞で3名(受賞作1、優秀作2)、短篇部門で2人(受賞作1、優秀作1)と、5人に授賞する大盤振る舞いである。「衝撃の5人同時デビュー!」とのコピーが表紙に躍っているのが微笑ましい。

 本賞のほうは最終選考に4人残ったそうで、つまり1人だけ落ちてしまったわけだ。可哀想に。全員受賞にしてあげればいいのに。

 さて、3誌で計8人もの受賞作や優秀作が出たこのたびの純文学新人賞だが、取り上げたいのは、すばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人「みどりいせき」だ。表紙にも目次にも受賞者インタビューにも煽り文句がまったくないという好ましい節度のせいか、現時点での注目度はさほどでもないようだが、今後、確実に上がってくるだろう。写真を見る限りキャラ立ちもしてそうだし。

 一言でいうと、現代の高校生の生活や意識、関係性などを、等身大で饒舌な口語体で描いた作品である。特異な文体で、ジャーゴンや固有名詞が説明なく放り出されていることもあって取っつきにくいが、波長(バイブス)が合うと解像度が上がる、と選考委員は口を揃えている。

 等身大の口語体で若者を描いた小説なんて、いつの時代にもあったし、今もある。たとえば評者は読みながら、庄司薫や舞城王太郎を思い出していた。新人作家自身は、町田康や川上未映子を読んで「小説ってこんなに自由でいいんだ」と思って書いたそうだ。

「等身大」すなわち「リアル」と考えがちだが、作者は20代後半、描き出された「リアル」は入念に操作されたアウトプットだ。このチューンの手際と達成に、風俗や時代を超えた「リアル」を物することができるか否かは掛かっている。

新潮社 週刊新潮
2023年11月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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