小説と漫画。「怖さ」を生み出す創作の原点――有栖川有栖×山崎ハルタ 対談【後編】

対談・鼎談

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濱地健三郎の呪える事件簿

『濱地健三郎の呪える事件簿』

著者
有栖川 有栖 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041116531
発売日
2022/09/30
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小説と漫画。「怖さ」を生み出す創作の原点――有栖川有栖×山崎ハルタ 対談【後編】

[文] カドブン

心霊探偵・濱地健三郎シリーズの著者である作家の有栖川有栖氏と、あらすじ紹介漫画の執筆がきっかけで大の濱地健三郎ファンとなった漫画家の山崎ハルタ氏。小説と漫画での表現方法の違いや、濱地健三郎シリーズのキャラクターの魅力について語り合っていただきました。
(本記事は「怪と幽vol.012」に掲載された内容を転載したものです。)

構成・文=千街晶之 
写真=橋本龍二

■『濱地健三郎の呪える事件簿』特集
有栖川有栖×山崎ハルタ 対談【後編】

■切り口を考える
小説と漫画の類似点

有栖川:私もそうですけど、小説家には、子供の頃に漫画家になりたかったという人が多いんです。でもクラスに自分より絵の上手い人がいた時点で駄目じゃないですか。それで諦める。私は小学生の時から小説を書いていて、クラスで一番上手かったんですよ、他に書いてる人がいないから(笑)。作家はその意味で漫画家に対する夢や敬意をずっと持っているんです。

山崎:そうなんですね。小学生の頃から文章を書かれているところから違う……そういう人が周りにいなかったので。

有栖川:ライトノベルでデビューしてアニメ化されて……とか思っている小学生が今はいそうですけどね(笑)。漫画家は原作付きの場合以外はお話も作れないといけないし、お話が作れて絵が描ければOKなのかというと、映画の演出みたいに全部やるわけですよね、コマの大きさを変えて、映画のクローズアップのようにしたり、いろんなことをしたりして。絵が上手い人はいっぱいいても、そういったところで勝負が決まるんだろうなと思いますね。

山崎:切り口を考えるという点では、小説とそういうところは似ているのかなと思いました。どういう場面で始まるとか、誰の視点で描くとか、どういう見せ方をするとか。

有栖川:コマが大きくなったり小さくなったりとかは小説では出来ないけど、文字遣いとか改行とかでそれと似たような効果があるといいなと思いますね。自分にはわからない世界なんだけど、わかる気もするという……。山崎さんはどのように漫画家デビューされたんですか。

山崎:私は兄が二人いるので、小学生の頃は「週刊少年ジャンプ」を毎週読んでいました。『キャッツ♡アイ』(北条司)や『北斗の拳』(原作・武論尊、作画・原哲夫)など、ジャンプの黄金期と呼ばれる時期ですね。ただ、自分が本当に漫画家になるとは思っていませんでした。もともと絵を描くのは好きだったんですけど、美大を受けることにしたので予備校に通いはじめたら、デッサンや受験用の絵を描くことが多くなりまして、漫画から卒業してしまったんです。でも絵を描く仕事に就きまして、そこで画力を鍛えられた気がします。その後、子供を産んで会社を辞めてから、そういえば昔、漫画を描いていたんだから、こんな時代だし、絵を描いてTwitterに上げてみようと思い立ちました。それをKADOKAWAのSさんが見てくださって、メールを突然いただいたんです。それでTwitterに四コマ漫画をアップしてみたところわりと反響が良かったので、じゃあこれでやってみましょうということで進めて、刊行に至りました。

小説と漫画。「怖さ」を生み出す創作の原点――有栖川有栖×山崎ハルタ 対談【...
小説と漫画。「怖さ」を生み出す創作の原点――有栖川有栖×山崎ハルタ 対談【…

有栖川:四コマ漫画ってわりと素朴な絵で描いてる人が多いですけど、山崎さんは異様なクオリティで、そこがまず面白いですね。

山崎:ありがとうございます。小さい頃から「りぼん」とか「なかよし」なども読んでいたので、そういう時期の少女漫画の影響が出ていると思います。

有栖川:私は漫画家さんというと、新人賞で認められて高校生でデビューしていきなり売れてという昭和のイメージだったんですが(笑)、いま伺うと、出産なさって、子育ても忙しい時期だったと思うんですけど、漫画を描いてTwitterに上げたら編集さんから声がかかってデビューするとか、今はそうなんだなあとイメージが刷新されましたね。

山崎:そうですね、今は雑誌じゃなくてもインターネットで発信できるので、そういうところは恵まれていたんだなと感じています。

有栖川:小説もコンテストを通らなくても自分で発信できるようになりつつありますけど、絵はその点有利ですよね。一目見て好きだとか気になるとかが判断できるので……小説はどんな傑作でもパッと本を開いた瞬間に「すごい!」と判断されるようなことはあり得ないので(笑)。そこは絵のほうがネットに向いているところですね。

■今まで読んできた漫画と小説

──有栖川さんは小学生の頃に漫画を描いていて、お友達と雑誌を作られたと以前インタビューで読みましたが、どのような漫画を描いていたんでしょうか。

有栖川:二人だけで「週刊少年マガジン」みたいなものを作りたかったんですね。それで、当時の少年漫画誌みたいに、まずスポーツ漫画を入れて、怖い漫画も入れる、ギャグ漫画も必ず入れる、SF漫画も入れる……みたいに、これはどっちが描くかを分担するんですけど、あらゆるジャンルを描けなければならなかったんですね、二人しかいないから(笑)。でもこの段階で彼の方が絵が上手かった(笑)。

山崎:本格的ですね。いろんなジャンルの物語を集めて雑誌を作るというのが。

──それは作ってみんなで回覧したんですか。

有栖川:そのレヴェルじゃなかったんで、二人だけで読んでました。冊子にする意味はあったのか(笑)。

──有栖川さんは、子供時代はどんな漫画を読んでいましたか。

有栖川:私は「週刊少年マガジン」が大好きでしたね、一九七○年前後の。『巨人の星』(原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる)や『あしたのジョー』(原作・高森朝雄、作画・ちばてつや)、『天才バカボン』(赤塚不二夫)、『ゲゲゲの鬼太郎』などが載っている頃でした。私は美味しいものをあとから食べる癖があるんですけど、どれを最後に読むかしばらく悩むくらい傑作揃いでした。

山崎:やっぱり漫画も小さい頃から読まれていたんですね。

有栖川:小説より漫画が先でしたね。漫画は幼稚園の時から『鉄腕アトム』(手塚治虫)などを読んでいて、小学一年生から「週刊少年マガジン」を読むようになりました。

──山崎さんには漫画についての読書歴はお聞きしましたが、小説に関してはいかがでしょう。

山崎:漫画ほどは読んでいなくて恐縮なんですが、中学時代はソノラマ文庫をよく読んでいました。夢枕獏さんや、菊地秀行さんなどです。夢枕獏さんは「キマイラ・吼こう」シリーズが好きで、菊地秀行さんは『魔王伝』とか「吸血鬼ハンター〝D〟」シリーズを読んでいました。大学の時は谷崎潤一郎や芥川龍之介といった純文系を読んでいたんですけど、どんな内容だったか今はあまり記憶になくて(笑)。大人になってから読んでいたのは村上春樹さん、中島らもさん。あと勉強として読んでいたのは『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン)や『1984年』(ジョージ・オーウェル)などです。

──SFやファンタジーが多めですね。

山崎:言われてみるとそうですね。姉妹がいなくて、兄がいたという影響はあるかもしれないですね。今でも少年漫画のほうが好きです。描いてるのはラブコメなのに(笑)。

有栖川:読む漫画って、きょうだいが男か女かで変わりますよね。私は男兄弟なので女の子向けの漫画はあまり縁がなかったんですけど、小学生の頃に診療所に行ったら、少女漫画誌しか置いてなかったので読んだら面白かった。私の世代は男性が少女漫画を普通に読み出した第一世代で、高校時代に萩尾望都さんを読んで、すごいなあと思って。『ポーの一族』にはびっくりしましたね。あと山岸凉子さんも。

山崎:山岸凉子さんは私もすごく好きで、『日出処の天子』は何百回読んだかわからないくらい読みました。

有栖川:山岸さんは怪談もいっぱい描いてますよね。

山崎:怖いんですよね……。そのあたりは今回も影響を受けているかもしれません。覗き込んでいるシーンも、なるべく線の抑揚をつけないように……と気を付けていたのは、作画で受けた影響かもしれないと思います。

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有栖川:なるほど。本当に思いがけず濱地やユリエの顔を見られてラッキーでした。

山崎:皆さんの中にそれぞれの濱地先生、それぞれのユリエちゃんがいると思いますが、とはいえ描く機会をいただいて本当に嬉しかったですね。対談する機会までいただけて夢のようです。

KADOKAWA カドブン
2023年10月27日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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