『皇室財政の研究 もう一つの近代日本政治史』加藤祐介著

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皇室財政の研究

『皇室財政の研究』

著者
加藤 祐介 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784815811266
発売日
2023/07/18
価格
6,930円(税込)

書籍情報:openBD

『皇室財政の研究 もう一つの近代日本政治史』加藤祐介著

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

膨大資産手放し 「象徴」に

 1945年10月、GHQは皇室が所有する財産を公開した。現金、有価証券、土地などを合わせるとその額は三井や三菱、住友など財閥を大きく上回っていた。その事実を初めて知った国民は、昭和天皇とマッカーサーが一緒に写った写真が新聞に掲載されたのに匹敵する衝撃を受けたという。皇室はなぜそれほどの財産を持つことになったのだろうか。本書は皇室財政の確立と発展、さらにその帰結を描いている。

 国庫支出の皇室費が増加すれば議会の皇室への介入につながるという危機感から、皇室の財政を安定させるために日清戦争の賠償金の一部を皇室に割り当て、株式投資を行い、さらに御料地となった農地や山林の経営が行われていった(山林の木材輸送を行う鉄道会社の株式も所有していた)。一方で大正デモクラシーの状況や関東大震災、昭和恐慌後の農村の困窮などに対し、国民統合のため皇室から国民に支出される資金も増加した。宮内省は増加する支出に対応し、資産価値が安定している国債や地方債を購入していくが、これは皇室の「国家本位」の立場というPRに使われた。一方で御料地の経営をめぐる小作争議や皇室が株式を持つ企業の労働争議に宮内省も巻き込まれるようになる。

 皇室財産の拡大と共に、それが皇室の公的性格と矛盾するという議論が起き、北一輝は皇室が財産を自主的に放棄するよう主張し、昭和天皇も御料地を政府に委託する意見を述べる。結局終戦後に皇室財産に財産税が賦課され大部分は国庫に納められ、皇室財政は予算に計上される皇室費で賄われそれ以外の収入は私的収入として課税対象となり、戦前はあいまいだった皇室の公的領域と私的領域は整理されていく。

 戦後の皇室は政治的・経済的な力を失うことで逆に国民統合の象徴としての役割を果たすことができたと思われるが、令和の時代における皇室の役割を考えるうえでも、本書は参考になるだろう。(名古屋大学出版会、6930円)

読売新聞
2023年10月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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