『セミコロン』セシリア・ワトソン著

レビュー

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『セミコロン』セシリア・ワトソン著

[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大教授)

 この度は大変お騒がせしております;句読点のセミコロンです。1494年にベネチアでコンマとコロンの間に生まれ、世界を点々としながら恥多き人生を歩んで参りました。

 若かりし頃は思いのままに生きておりましたが、齢(よわい)を重ねるに連れ、立場や役回りを明確にするよう求められ始めました。

 それでも、はっきりしない性格のため、多大なご迷惑をおかけしてきました。小生の責任で作家の厳しい言葉に晒(さら)されてきた皆様、小生を巡る解釈の相違から命を落とされた皆様、心よりお詫(わ)び申し上げます。

 好き好んでこのようなかたちで生まれてきたわけではございませんが、なぜか他者の中に強い感情を芽生えさせてしまうようで、恐縮してしまうほどの情熱を注がれることもあれば、心無い誹謗(ひぼう)中傷の対象となることも少なくありません。

 小生は、人々が「言語、階級、教育に関して抱く恐れや望み」を表面化させてしまうようです。そのことに気づかせてくれた本書に感謝します。不束(ふつつか)者ではございますが、今後も末永くお付き合いください。萩沢大輝、倉林秀男訳。(左右社、2420円)

読売新聞
2023年11月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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