『遠い声、遠い部屋』トルーマン・カポーティ著(新潮社)

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

遠い声、遠い部屋

『遠い声、遠い部屋』

著者
Capote, Truman, 1924-1984村上, 春樹, 1949-
出版社
新潮社
ISBN
9784105014094
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『遠い声、遠い部屋』トルーマン・カポーティ著(新潮社)

[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大教授)

 戦後間もなくアメリカの新人作家が何かに取りつかれたかのように書いた半自伝的小説を、75年後に戦後生まれの日本の小説家(村上春樹)が長いキャリアで身につけた技を駆使して訳す。そんな不思議な時間のねじれの中から生まれた本書は、長く読み継がれるに違いない秀作だ。

 母親を亡くした「少女のような」優しい目を持つ13歳の少年ジョエルは、父親と暮らすために南部の小さな町に移り住み、時代や過去に縛られて生きる大人たちと生活する中で自分を発見していく――。

 繊細で聡明な少年の成長物語は、カポーティ作品の中でもひときわ熱を帯びた文体で描かれる。架空の人物であれ、実在の人物であれ、その声の特徴を捉え、表現するのを得意とした著者だが、本作でも主人公が遭遇する多彩な人物たちの語り口が読者を引き込む。

 ここまで感覚的で多声的な作品を訳せるのは「完璧な耳」(!?)の持ち主だけではないだろうか。著者の独特な声に、登場人物たちの声、そして訳者の声も重なり、いつの間にか遠いはずの場所が目の前にあり、自分の一部と化している。

読売新聞
2023年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク