『砂時計 警視庁強行犯係捜査日誌』
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ミステリーを超えた人間の信頼への揺るぎない回答
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
警視庁捜査一課強行犯係のベテラン刑事たちを主人公とした三つの中篇を収めた傑作集である。
何と言っても素晴しい出来映えなのは、巻頭の表題作「砂時計」である。帯に“誰もがオトコ泣き!”とあるが男も女も関係ない。熱い血の流れている人間ならこの作品を読んで泣かない人はいないだろう。
本篇で大河内茂雄部長刑事が対峙するのは自分なりの「正義」をふりかざし、そのためには周囲の人間がどれだけ破滅しても一向に意に介さぬ悪魔のような犯人である。ラスト近く、大河内のプライベートが披瀝されるが、被害者に対するその一言は限りなく重く、そして温かい。
ここにミステリーを超えた一個の小説としての、人間の信頼への揺るぎない回答がある。
第二話「日和見係長の休日」は、家族と休日を楽しむ捜査一課係長小林豊が、偶然、浅草で再会したかつての“寮長”から、不審な点が残る事件の再調査を依頼される物語である。
本来は首をつっこんではいけない所轄の事件に恐る恐る入っていくのだが、これが元警官の自殺に留まらず、男女の薬物中毒者が水死体で見つかった過去の事件まで引き当ててしまう。捜査には興味津々たる様子のキャリアの女刑事がまとわりついて、こんな美人がそばにいたら落ち着いて捜査が出来ないと悩む事しきり。この第二話が最もユーモアがある。
巻末の第三話「夢去りし街角」は、無残に崩れゆく青春の夢を描いたミステリーである。作品名は内容にふさわしく、桜が散った目黒川で、醜悪な人間関係の中から一人の女性の遺体が発見される。
若者たちの青春の夢を貪る奴。若者の夢を利用しようとする奴。
その中で類稀な存在感を放つ大河内部長刑事。
巻末には関連作品の一覧が記されているので是非その世界観に浸って頂きたい。