『高学歴難民』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『ルポ 高学歴発達障害』
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『高学歴難民』阿部恭子著/『ルポ 高学歴発達障害』姫野桂著
[レビュアー] 森本あんり(神学者・東京女子大学長)
高いプライド 足かせに
世の中は「夢を諦めるな」「挑戦し続けよ」というメッセージであふれている。だが、大学の教員ならたぶん誰もが知っている。研究職を目指す学生の中には、別の道に進んだ方がいいと思われる人がいることを。でも、指導教員としてそれを口に出すことは難しい。伝え方によっては、ハラスメントと受け取られかねない。だから自分の見立てが間違っていることを願いつつ、つい進学を奨励してしまうのである。
「高学歴なのに」という新書本が十日を隔てて二冊発行された。「高学歴」の意味や規準は両書で多少異なっているが、どちらにも心塞がれるような事例のルポが並んでいる。博士課程を修了しながら非常勤の掛け持ちで収入は月十万、追い詰められて振り込め詐欺や万引きに、あるいはセックスワークに走る人。学歴至上主義の両親に育てられ、「無駄に高学歴」と蔑(さげす)まれてアルバイトもクビになる人。勉強好きでもないのに学費を出してくれると言われて法科大学院へ進んだが、司法試験に受からず、MBA(みじめ・ぶざま・あわれ)と揶揄(やゆ)される人。
名の通った大学を卒業しながら発達障害で人間関係につまずく例も多い。学歴コンプレックスのある上司や同僚に苛(いじ)められて職場を去る人。遅刻や忘れ物が多いと責められ鬱(うつ)病になり、家族のもとでニート化する人。こちらは、発達障害の支援をする専門の精神科医や福祉事業家や大学機関の取り組みも紹介されている。
共通して目立つのは「高学歴プライド」である。自分のでなく親のプライド(転じて僻(ひが)み)に苛(さいな)まれる人もある。裏を返せば、学歴以外に誇れるものが何もないことの証だろう。自分はたまたま運が悪いだけで、本当はとても有能なのだ、という甘い現実認識も透けて見える。
実は、日本は諸外国に比べて大学院への進学率が極端に低い「低学歴社会」である。「高学歴」がいつまでも特別で例外であるような国では、この病は簡単には癒えないだろう。(講談社現代新書、990円/ちくま新書、924円)