『妖怪学とは何か 井上円了精選』
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<書評>『妖怪学とは何か 井上円了精選』井上円了 著、菊地章太(のりたか) 編・解説
[レビュアー] 石堂藍(ファンタジー評論家)
◆超越的なものを希求
井上円了は明治時代に日本全国の怪奇現象を調査し、妖怪博士、お化け博士という異名を取った宗教哲学者。その重要作をまとめたのが本書である。妖怪についての基本的な考え方を示した「妖怪学講義録」、亡霊や人魂(だま)を始め、様々(さまざま)な怪奇現象の謎解きをした「おばけの正体」、当時の雰囲気を伝える講演の書き起こし「妖怪談」、円了が希求するものについて語った「真怪論」ほか三編を収録する。
怪奇現象にこだわった円了の目的は、それを合理的に説明し、庶民の迷信を打破すること、つまり啓蒙(けいもう)にあった。そのため、怪奇を愛好する人々、例えば柳田國男や現代の妖怪研究者などからは否定されることも多かった。しかし、もともと信仰者であった円了が、単なる合理主義者でないことは「真怪論」にもよく表れている。科学的理解も迷信も及ばぬ超越的なものを円了は求めた。編者はその機微をよく理解して解説している。本書にはこのほか編者による円了の評伝、調査地一覧や参考文献等の資料も収録され、円了入門に最適の一冊となっている。
(講談社学術文庫・1177円)
1858~1919年。文学博士。『霊魂不滅論』。
◆もう一冊
『妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心』小松和彦著(講談社学術文庫)